あのさ……。始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて……、好きって気持ちに間違いなんてない……と、思う、けど。
[tegaki font=”crbouquet.ttf” color=”Tomato” size=”36″]もう一度、始めよう[/tegaki]
すれ違った気持ちは、八幡がその理由に思い至らないがゆえに、二進も三進もいかなくて。まさに、停滞。もともと、八幡の側からしたら、結衣と必要以上に親しくなる理由がない、というよりも、彼女のようなリア充側に属するはずの人間が、自分のようなぼっちを気にかける理由は、罪悪感とか責任感とか義務感とかがないとあり得ないなんて考えているのが原因で。結衣からしたら、八幡に対する気持ちは、もう隠しようがないくらいにふくれてしまっているのに。それに周囲の人間が気付かないのは、そう、雪乃さんも八幡も、そういう感情というものとはまったく縁がなかったから。どれだけ慧眼と知識を備えていても、経験には及ばない部分がある。それは、結衣が人間関係の機微を一発で看破したのと同じようなもので、アホの子扱いされている彼女ですが、人間関係を築くことについては、奉仕部の他の逸脱したような二人とはレベルが違うというか。
一線、という意味では今巻を通じて明らかになったのは、むしろ雪乃さんとの間にある深い溝のほうが気になりますね。結衣との友情というものは、確かにふたりの間に存在しているのは分かりますが、雪乃さんの方から彼女へのアプローチというのは微々たるものなんですよね。奉仕部にいて欲しいというささやかな願いだったり、結衣のことを友だちと思っていると告げてみたりと、普段の怖いものなしな女王さま然とした彼女の姿からはなかなか想像できないような、おっかなびっくりな態度なんですよね。結衣の誕生日イベントのための買い出しに八幡の動向を頼んだくだりとかもそうですが、彼女がようやく自分以外の誰かの力を頼ろうとしてきたのは、奉仕部の存在意義からすると多分、好ましいこと。友だちなんて必要としないような存在だった少女が、ほんの少しでも同じ部活の仲間を大切にするそぶりが見れたことは、ようやく何かが動き出すのかなと、そんな思いを抱かせます。
謎だらけの雪乃さんの私生活も、また少しだけ明らかに。今回登場した姉・陽乃さん。面の皮の厚さというか、彼女の纏った外面を当たり前に維持する強さは、多分雪乃さんにはないものですよね。自分以上にハイスペックな存在っぽい姉の存在が、雪乃さんにとってのコンプレックスになっていそうな描写。今までの巻にも、姉妹に関する話題に反応していた節もあるし、母親との関係もこじれてそう。地位と権力のある家に生まれ、そうあるように育てられたことで生じた亀裂が、今の雪乃さんを縛っているような雰囲気。それが、家族、きょうだい円満な八幡や結衣とは決定的に違う一線で、それが二人に踏み込めない理由の一つなんでしょうか。
結衣と八幡のぎくしゃくした関係を改善する流れがメインかと思ったら、雪乃さんの様々な一面が見られた今巻。可愛いキャラクターに並々ならぬ入れ込みを見せたり、八幡とのお出かけが何気にデートっぽい雰囲気を醸し出したりでもそれはお互いに距離感を保ったなりたての友だちの関係のようだったり。彩加は相変わらず可愛いし八幡の彼への惚れっぷりがいよいよ危険なレベルになってきたり。材木座のウザさは健在で、けれど、彼の創作に向ける絶叫には少しだけ見直したり、その直後にやっぱり見損なったり。いつもの面々のちょっと斜め上の日々が少しずつ積み重なって、関係性も移ろい変わっていって。
ぐるぐる巡って結衣と八幡の落とし所は、結局、事故のことをお互い気にするのは止め。それはそれとして、もう一度お友だちから始めましょうって、その先のステップを目指してるんだって、八幡、気付いてないよなあ。始め方が間違っていたんだったら、もう一度最初から始め直せばいい。彼らのくらい、青春のまっただ中だと、やり直せないこともあるんだろうけれど、まだ関係性の浅い奉仕部の面々は、やり直しなんていくらでも利く。思い違いが致命的な傷に発展する前に、リスタートできてめでたしめでたしってところですが、雪乃さんが引いている一線が、この先、また問題になっていくんでしょうね。
それぞれの思いが少しずつ変わり始めた感じのする第3巻。ここからがある意味本当のスタートになるのかな?
……ボーナストラックの短編も面白かったですね。ドラマCD付きの特装版買ってないんですが、これは買ってでも聞く価値ありそうな気がしますよ? ああくそう、女の子たちみんな可愛いなあ! あ、当然、彩加も。
hReview by ゆーいち , 2013/02/15
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