君も同じだよ。君も優しくて正しい。雪ノ下とは相容れない優しさであり正しさだが。
[tegaki font=”dfgot_p.ttc” size=”36″]雪ノ下雪乃はここにいない[/tegaki]
夏休みも終わり直前。前巻のキャンプの後、雪乃さんと再び会うことのなかった八幡の過ごす日々。
彩加や材木座と遊びに行って意外に男の子趣味の話題で盛り上がってみたり。川崎さんとの何気ない会話と、その先で弟君のフラグをぶち折ってみたり。結衣の犬を預かった比企谷家の日常の変化を描いてみたり。小町は相変わらずアホ可愛くて気の利く妹であらせられたり。平塚先生とラーメン食いに行ったり。結衣と夏祭りに行ってみたり。そうして、夏休みが終わってみたり。
どこがぼっちだ! と突っ込みを入れざるを得ないくらいの充実ぶりをする八幡の夏休み(後半)だけれど、彼のぶれなさは健在、だったかな? 勘違いしないように気をつけつつ、踏み込んでいかない八幡。一方で結衣とかはぐいぐい彼へと踏み込もうとしてくる様子。平塚先生だって、生徒との距離感というよりも、今回のエピソードではむしろ先輩後輩的な立ち位置で八幡と話をしていたり、なんだかんだで八幡の対人スキルも少しずつ変わってるってことなんでしょうかね。高校に入学しての一年あまり、存在感をなくして生きてきた彼が少なくない人数と交流を持つようになってきたっていうのは彼のポリシー的にどうなんだろうなっていうの問いに、彼は彼なりの答えをラストで出しているように思えますが。
ともあれ、結衣との関係は一進一退を続けてる感じですね。夏祭りでは良いところまでいってる感じがしたのに、クラスメートの視線で一気に冷めてしまった八幡の心情が切ない。あくまで、自分のせい結衣の立場がよろしくなくなることを案じて距離を開ける八幡。結衣は結衣でそのことを察しているのに、彼女もまた自分の立場に縛られているのか、何よりも八幡との関係を優先するには至らない。彼女の中で彼の存在がどんどん大きくなっているのは明らかなのに、スクールカーストという目に見えない順位付けが絶対的にふたりの間に横たわっている。それを痛いほど知っているから、八幡の方から結衣へと歩み寄るなんてことはないんだという結論が浮かんでしまうんですね。そんな冷めた諦めをちらつかせる八幡に、それでも結衣は踏み込もうとする。事故をきっかけにした出逢いがなくったって、結衣は八幡にきっと出逢うという確信。それは、遠回しな告白に見えて、実際、結衣にとっての精一杯の告白。八幡は、好意という利益を度外視した感情の動きに対して、ロジックで答えを出すことができないでいるのかもしれません。何かが変わろうとする感覚を得ながら、その正体を掴み切れていない様子もありますし。
期待すれば裏切られる。裏切りたくないから期待するな、深く関わるな。そう思い続けていた八幡が、それでも、例外として認めた存在がその場にいない雪乃さんで、そしてもしかしたら……。
夏休みが終わり、ようやく再会を果たす八幡と雪乃さん。お互いが知らぬ夏休みを過ごし、新学期初めての顔合わせはなんて苦いのか。姉・陽乃さんの語る妹の姿は、八幡の知る彼女とはかけ離れていて。そして、それは自分が憧れていた「雪ノ下雪乃」の否定と感じたのか、それとも事故に居合わせたことを語ろうとしなかったことへの暗黙の抗議なのか、それとも他の理由なのか。自分が知らず、いつの間にか憧れていた雪乃さんに裏切られたと思ってしまった八幡。そう思ってしまった自分を自己嫌悪する八幡。言葉は少なく、視線を逸らし、背を向け別々の方向へと歩き始めるシーンで終わるこの巻。印象的な最後の見開きの挿絵が印象深く、そして次のエピソードの波乱を強く予感させるものになっていますね。
hReview by ゆーいち , 2013/02/17
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