ねぇ、【トオル】君。……仮にですよ? 自分が死んで、その後で誰かが自分の為に何かをしてくれていて、それを死んだ自分が知ったとしたら、何を想うのでしょうかね?
半年前に起こした事件のせいでクラスから孤立した【エーコ】は、ある日入部した化学部の部室で喋る人体模型の【トオル】君と知り合う。まるでボイスチェンジャーを通したかのような声で喋る人体模型に【エーコ】はその正体をいぶかしみ【トオル】君がそれをやんわりと躱すというヘンテコな部活動が始まるのだが、そんな中、校内で女生徒が自然発火するという事件が起こり……。
ひねくれ少女のシニカルな学園ミステリー。第19回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作!
第19回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作。タイトルから、部活という狭い空間を舞台にした学園モノかと想っていたら、ミステリものだったでござる!
主人公で語り部である【エーコ】のキャラクターが強烈ですね。とある事件を境に生まれ変わったと自己分析する彼女の、普段のクールさと、心の中でのツッコミのアンバランスさが面白いです。妙に軽いパロディネタとかを挟み込んできたり、この主人公、侮れません。冒頭の、燃えさかる女子生徒を静かに見下ろすシーンの超然とした様とは全然印象が違いましたが、それが逆にインパクトになっているかも。雰囲気的にはみーまーを彷彿とさせますが、あそこまで救いがないわけでも登場人物たちがことごとく壊れているわけでもなく、けれど、現実にあり得そうな空気の生々しさを引きずっていきます。
いや、それにしても、部活あんまり関係ないじゃん! みたいなツッコミは野暮ですかね。いろいろあってひとりぼっちで化学部に在籍することになるエーコ。なぜかそこにあるしゃべる人体模型のトオル。割と序盤でトオルが登場して、現実的な世界とかけ離れたキャラクターにポカーンとしかけたんですが、その人間くさい言動はオカルトの類じゃないですよね。エーコが早々に「中の人」がいるんじゃないかと察したのも当然かー。まぁ、そんな彼女と彼(?)の奇妙な会話を所々に挟みながら、学校で発生した人体発火事件の真相を追っていくというミステリな展開が続きます。
エーコがそういう性格をしているからなのか、彼女は学校では腫れ物扱い。堂々と邪魔者として辛辣な言葉を投げる人物もいれば、遠巻きに眺める人物もいて、あるいは彼女の事情なんて気にせず接してくる人物まで様々な性格の人物たちが登場しますが、大部分はいけ好かない人たちですね。基本、学校という空間では人気、実力のある人が我が物顔で闊歩するなんてのが常ですが、それが嫌な形で見せつけられるのは堪りませんね。学校での様々な出来事が社会問題化しているこのご時世に、こういう物語を世に出すというのはある意味で勇気ある決断でしょうが、読者としては面白ければ全然オッケーですね。
まぁ、ミステリものとしては犯人が誰かだとか比較的あっさり想像できたりするので、謎解きを楽しむというより、この作品の独特の雰囲気を楽しめるかどうかがキモになりそうですね。文章は個人的には読みやすい部類ではないと感じましたが、作者ならではの語り口など人によっては中毒性がありそうな気もします。というより、エーコのキャラクターがヒロインとしてもなかなかアグレッシブなタイプなので、彼女の活躍を見て楽しめるかどうかが分かれ目かと。いじめられっ子から嫌われ者にジョブチェンジしつつ、芯の部分は逆に強くなったんじゃないかっていうくらいに別人になってしまった彼女。過去の彼女が目を覚ます可能性はない感じもしますが、社会復帰を目指そうとする先生との絡みも腐れ縁的に続いていきそう。
犯人の告白や強者が支配する学校での陰惨な出来事など、心が痛くなるような事件の結末を経て、エピローグはさらに嫌な感じで終わってますね。この学校、大丈夫なの……? というか、エーコの身の回りには危険がいっぱいってこと? 目に見えない無数の悪意がそこにあるとしたら、それとどうやって付き合っていけばいいというのやら。最後の会話では、その根っこにある厄介な人物がいそうなことがほのめかされていますが、表だって手を下すその他大勢よりよほどタチが悪そうな感じですね。
部活という自分とトオルの二人だけの時間が、エーコにとっては一番心安らぐ時間になるんでしょうか。わかりやすすぎる形でトオルの中の人の正体がほぼ示されていますが、明確な答え合わせは持ち越し? 次巻の発売も決まっているようなので、続きも楽しみです。
hReview by ゆーいち , 2013/03/02
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