C3‐シーキューブ‐〈16〉 episode CLOSE / the first part

stars 我が儘なのはわかってる。それでも言う。こないだお前、俺と一緒にいたいって言ってくれたろ。その返事だ……俺も、お前と一緒にいたいと思ってる。ずっとこの家で一緒に暮らしたいって思ってる。だから――命令だ。いろよ。今まで通り、ここに。

C3‐シーキューブ‐〈16〉 書影大

領主自ら率いる蒐集戦線騎士領が大秋高校を占拠。夜知家を含む付近一帯、街全体をほぼ1日かけて騎士領化するという建国の槍を大地に打ち込んだ。
また竜島/竜頭師団の師団長ペンドラゴンは、最強に至るため依然として黒絵を我がものにしようとしていた。
ふたつの大きな脅威を前に春亮たちは事態の打開を図ろうとする。しかし、先の戦いの最中、春亮を傷つけてしまったフィアは自閉モードに入ってしまい――。
呪われた道具たちが織りなす物語、それぞれの想いに決着をつけるクライマックス編がついに開幕!

物語もいよいよ最終章。一冊で終わらなくて分冊になったのは、この物語に付き合う時間が延びたということで、ファンとしては願ったり叶ったり。欲をいうなら、それほど間を置かずに出していただければ……。

街に集う最大勢力の首領たち。すべては春亮と、彼にまつわる人や禍具をきっかけに始まった物語が、彼らへと一気に収束をはじめています。新たな勢力として立ち上がりそうな夜知家へと痛烈な先制攻撃を仕掛ける戦線騎士領。そして、ただ、ひたすら最強を求め、そのためにはいかなる犠牲をも厭わない竜島/竜頭師団の師団長。どちらか一方だけでも手に負えない規模の襲来なのに、それが両者同時とあってはいかな春亮たちといえどなすすべもなく。前巻の最後で取り返しの付かない事態に陥り、けれどもからくも窮地を抜け出した場面から始まる今巻は、精神的にのしかかる重みがこれまでの比じゃあないですね。

これまで春亮は最後の一線では守られ、致命的なダメージを避けることができていました。が、このはを取りもどすあたりから、彼の自分の身を顧みない行動は良い方向にも悪い方向にも容易に転げてしまいますね。以前の事件ではそれが功を奏し、なんとかことを納めることができましたが、今回のフィアの暴走、そして彼が負ってしまった一生ものの傷は、様々な意味で、彼と、彼以外の彼女たちに深い痛みを与えているようです。自分の責任だと感じ、謝ることも、進むことも、消えてしまうこともできず、貝になるフィア。彼を傷つけたことを誰よりも怒り、容赦ない言葉と拳をぶつけるこのは。本来なら簿を納めようと頑張るはずの錐霞も、嫌な雰囲気を払拭してくれるはずのムードメーカーの黒江も、今回ばかりは言葉もなく。今までなんだかんだで上手くやって来た、この家族の構図がもろくも崩れ去ろうとしかねない光景は、ただただ痛々しいものですね。

さらには、彼らの知らぬ間に占拠された母校。そこで騎士領化を企む戦線騎士領の行動も、紙一重のもので油断がなりません。生徒丸ごと総人質の構図に、相対できる戦力はほとんどなく、そして面倒な禍具の呪いで外から手も出せないと。内部に残された白穂やン・イゾイーたちが活路を見いだそうとするけれど、おいおい、なんだかよっぽど危険な状況に陥っていませんか? 今までは呪いにまつわる話とは縁のなかった友人たちにも、ついに隠していたことを伝え、これまた彼らの友情はどうなる? な展開ですが、こういう展開は割とハッピーエンドへのフラグ立てに見えてしまうのですよね。いや、何も考えてないようでしっかりしてる彼らが、そのことを理由に春亮たちから離れるなんてのは想像ができないものですから。そういう部分も含めて、物語が結末へ向かっていると思えるのはやはり少々寂しいものでありますね。

物語はいいところで続きます。フィアに向けた一世一代の春亮の告白。彼がようやく自分の立場を気持ちをたった一人に告げることができたのは、皮肉にも大きな事件が立て続けに起きたからで、それを喜ぶのは不謹慎でも、彼が言うように、フィアと出逢ったからこそ起きた変化なんでしょう。面倒ごとが増えても、賑やかで楽しくなった日常を大切に思うからこそ、この土地を護り、家を護り、帰る場所がなくならない為に全力で戦うことを選ぶ。夜知家の意志が定まり、そして訪れるタイムリミットの日。前日までの、嫌な予感を吹き飛ばす吉報の主は果たして……? 忘れ去れてるビブオーリオ家族会なんじゃないかなあとか思ってますが、答えやいかに?

フィアの創造主が顔を見せたり物語の伏線が一気に回収されてますね。けれど、ラストエピソードの前編ということで、これから盛り上がるぞーってところで続いてしまうので、この巻だけだと鬱々とした雰囲気で盛り上がりに欠けてしまうのが残念。これまでになかったキャラの見せ場とかも出てきてるけど、残り1冊(?)であれやこれやに片を付けることができるのかな。

春亮の親と、フィアの親。直接の血縁、肉親的な存在がこういう形で大きな役割を担うというのもけっこう珍しいかも。息子を肯定し背を押す父と、娘の存在を自らの過ち断じ破壊をもくろむ父。正反対な親をもつふたりがこうして結ばれたというのは、やはり明るい未来を期待したくなりますね。崩夏の言葉を信じるなら、春亮自身もそういう希望の証だとも取れるわけで、その辺の最後の種明かしの含めて、最終刊では見事なハッピーエンドになることを期待してます。

楽しみ楽しみ。

hReview by ゆーいち , 2013/03/12

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C3-シーキューブ-XVI episode CLOSE / the first part (電撃文庫)
水瀬葉月 さそりがため
アスキー・メディアワークス 2013-03-09