魔法科高校の劣等生〈9〉 来訪者編〈上〉

stars 魔法が使えるからといって、魔法師にならなきゃいけないというわけじゃないよ。魔法師になったからといって、国家に奉仕する義務が自動的に発生するわけでもないのと同じさ。

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深雪のクラスメイトである北山雫が、USNA(北アメリカ大陸合衆国)に留学することになった。この時代、ハイレベルの魔法師は、遺伝子の流出=軍事資源の流出を避ける為に、政府によって海外渡航を制限(禁止)されている。にもかかわらず許可された理由、それは『交換留学』だからだ。
アンジェリーナ=クドウ=シールズ。
雫がアメリカに渡り、入り替わりで魔法科高校に入学したのは、金髪碧眼の留学生。彼女を見た達也は、瞬時にその『正体』に気づく。
リーナの本当の姿、それは大規模破壊兵器に匹敵する戦略級魔法師「十三使徒」の一人、USNAの魔法師部隊『スターズ』総隊長、アンジー・シリウス少佐。
魔法科高校にやってきた米軍最強の魔法師という『火の粉』を、達也はどう振り払うのか――。

一学年度の部ラストエピソードということで、ある意味クライマックス的なエピソード? でも、3分冊されているので、まだまだ導入という感じですね。このペースでいくと、達也たちが卒業するまでにはあと20冊くらいかかる計算なんですが……。

ともあれ、前回の派手な立ち回りでその存在を疑われはじめた日本で秘匿されている規格外の魔法師。その正体を探るために、米軍は最強の切り札を偵察とそして刺客として送り込んできて……。

いやいや、なんだか最強の大安売りが始まっている気がしますが、そんなパワーインフレの中でも優位を保ち続ける達也。彼自身も、着実に成長しているせいか、他者との実力の隔たりは縮まるどころか広がっているようにさえ思えます。妹の深雪の実力も伸び盛りという解説はありますが、物語が進むにつれて発揮されてくる『劣等生』の能力の反則さといったら、ね?

もはや、タイトルに意味がほぼなくなりつつありますが、レオとかエリカとかのこと戦闘に関する実力も、物語開始時の描写に比べてもどんどん強さが増していってますね。というか、彼らの段階で、米軍最強といい勝負ができるって、この学校の戦闘特化組の実力は、一国の軍隊を相手にも引けを取らないってこと? あわわ……。

吸血鬼騒ぎでオカルトめいた事件の中で進行する事態。リーナ=アンジー・シリウスの来訪と共に下手な腹の探り合いから一気に実力行使に発展したりと、割と国家間の緊張が高まっている世界観の中でテロに近い行為をよくやるなと思いつつ、本来の事件の犯人確保をそっちの気でお互いに戦闘に突入する、バトルジャンキーっぷりの方にこそ苦笑してしまいますね。お前ら、自分の力を存分に振るえる相手が目の前にいれば、適当に理由をでっち上げて戦いたいんじゃないだろうな、と。

そもそも正体不明の「吸血鬼(?)」の正体は割れていながらも目的と能力がまだまだ未知数で、おそらくは留学した雫がもたらした情報の通りUSNA側でも起きている事件との関連を考えるとかなり大規模な事件なのに、それを優先して解決しようという強い意志が見えないのが気になりますね。アンジー少佐の行動も、裏切り者の確保を優先していて真相まではたどり着いていないようだし、国内の事件でもエリカの兄の寿和たちも、なかなか犯人の尻尾を捕まえられてもいない。十師族の包囲網も狭まり、事件を取り巻く構図がかなり複雑化してきてるけれど、その過程で見られるそれぞれの勢力の立ち位置や政治力、スタンスの違いと行動理念が興味深いですね。身内に危害を加えられたら全力で敵を叩こうとする千葉一門の武闘派ぶりがまっすぐすぎて眩しい(笑) 四葉の独立愚連隊ぶりも相変わらずだし、他の氏族たちと共闘する気が一切ない、その特異性が際立っているかと。なんか十文字や七草の先輩たちの気苦労が知れますね。まぁ、あの二人もなんだかんだ食えない感じで活動してはいるのですが。

物語の中心になりそうなリーナは実力者なのにどこか抜けた感じがしてそのギャップが魅力なんでしょうね。でも、やっぱり肩書きに負けているような気がします。本来ならもっと実力を発揮できる場面があるんでしょうけれど、今回は敵地で条件も悪いということで、本巻の目玉でもある深雪との対決も最終的には決着が付かず引き分けという煮え切らない感じ。潜入工作に向いていないというだけあって、高い地位にいながらも部下の皆と家族のような付き合いをしている日常のシーンなどに和まされ、誤った知識でずれた振る舞いをする姿なんてのもコミカルでいいんですが、だからこそ本来の姿でのバトルの描写にもう少し凄みがほしかったのかなあなんて欲を言いたくなってしまうんでしょうね。まだまだ序盤、これから活躍の場面なんてたくさんありそうなのでそっちに期待。

にしても、プロローグでとんでもない災厄の発生が予告されているんですが、まだその兆候が見えていませんね。粒子加速器でマイクロブラックホール地球がヤバいCERNの野望が! みたいな別の作品が混ざってきそうなノリですが、オカルトめいた事件の裏で、一体何が進行しているのやら、そちらが明かされ、危機感バリバリのシリアスな展開希望ですよ。

まぁ、兄と妹のいちゃラブ描写でにやにやできて良い感じですけどね。深雪の枷を外す為に達也からキスするとか、もうね、彼女にとっては至福の一瞬でしたでしょうねえ(笑)

hReview by ゆーいち , 2013/03/17

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魔法科高校の劣等生(9) 来訪者編<上> (電撃文庫)
佐島勤 石田可奈
アスキー・メディアワークス 2013-03-09