デート・ア・ライブ〈7〉 美九トゥルース

stars 霊力なんて関係ねえ……たとえ『声』がなくったって、おまえが無価値になるだなんてこと、絶体にない……!

デート・ア・ライブ〈7〉 美九トゥルース 書影大

「ねえ士道さん。十香さんを助けたくはありませんこと?」
第6の精霊、美九の天使によって四糸乃、八舞姉妹を支配され、〈ラタトスク〉のサポートも受けられず、DEMの手により十香もさらわれ絶対絶命の五河士道の前に現れた少女。
――かつて士道たちを殺そうとした最悪の精霊、狂三。
彼女の力を借りるリスクを負ってでも、十香を救い出したい士道は共闘を決意する。
「俺たちの戦争デートを、始めよう」
人間に絶望し、歪んだ幻想を持ち続ける精霊、美九の目を覚ますために再びデートして、デレさせろ!?

美九の攻略に失敗し、決定的に致命的に嫌われてしまった士道。さらに、美九の能力で、味方だったはずの精霊たち――四糸乃や八舞姉妹――は彼女の操り人形と化し、さらには琴里をはじめとした〈フラクシナス〉のクルーの大部分まで支配され、孤立無援の状態に。そして、DEM社により十香はさらわれ、自身の無力さに絶望しかかる士道の前に現れたのは敵か味方か最悪の精霊・狂三。

わらにも縋る思いで彼女に助力を請う士道だけれど、そのリスクは尋常じゃないですよね。なんせ、彼女の本当の目的は士道自身を食らうことなのだからいつ寝首をかかれるか気が気ではないでしょう。それでも、的の敵は味方と信じ、彼女を信頼してDEM社へと向かう二人。狂三にしても、かつて登場したときのような凶気にまみれた行動というわけでもなく、割と理性的に動いているような雰囲気。というか、士道を色香で挑発してみたりと、なんだかずいぶんと印象が変わって見えますね。敵だったときはあんなに厄介で手の施しようがなかった存在が、味方になるとなんと心強いことか。無数に生み出した自分自身を道具として使うえげつない戦術はそのままに、さらに活用の幅が広がっているような。複数の自分自身を自由に使えるというのは、汎用性に富んで非常に使い勝手のいい能力だよなあ。燃費が悪いとはいえ、戦闘特化でもなくあらゆる用法が考えられるだけに、彼女の持つ時間を様々に利用する天使の能力は、他の精霊の天使の能力と比べても群を抜いてチートな気がしますね。

あれ、今回のエピソードは美九攻略の話なのに、なぜか狂三さんの話にばかりなってしまいます(笑) いやぁ、美九の方はやっぱり前巻で感じたように、彼女のわがままさは子供っぽいなあと思っていたら、彼女もまた琴里と同じように人間だった頃に『何か』=〈ファントム〉と出会い、精霊の力を与えられたという。そもそも、精霊というのが異界の存在という先入観でいましたが、こうしてかつて人間だった者が精霊化する例が続くと、そもそも精霊とは? とか隣界とは? とか世界の根幹に疑問が浮かび続けてきますね。

それはそれとして、美九の男性不信の元凶は、やはりそういうアレげなことが過去にあったんですね。アイドルに関わるネタとなるとそういう枕な下世話な話題も避けられませんが、純粋に歌を、音を楽しんでいた美九にとって、そのときを境に世界が敵だらけになったというのは絶望するに十分な仕打ちですよね。その心の隙を〈ファントム〉に突かれた格好になりますが、非常に厄介な能力を彼女に授けてくれたものです。おかげで、メンタルは子供のまま、自分の思いのままの王国を造り上げる孤独な歌姫の誕生と相成ったわけで。そうやって、能力を使って取り巻きを虜にしなければ、自分の歌を聴いてもらえないという恐れが、消えないままでいたというのは、彼女と向き合うことを諦めなかった士道じゃなければ気づけなかったことなのでしょうね。精霊の力を失くしても、彼女を応援すると、命を賭けると迷わず答える士道に、美九は何を見たのでしょう。かつて純粋に歌っていた頃、そうやって彼女を応援してくれていた誰かが確かにいたことを思い出すことができたのでしょうか。結局、こういうひねくれ者には正攻法しかないんでしょうね。諦めず、手を離さず、そして決して裏切らない。その思いが通じたからこそ、美九の人間不信を払拭し、思いを通じさせることができたのだと。

攻略不能かと思えた彼女も、ほんの些細なきっかけで悪感情が反転してみればあら不思議。いっきに好感度マックス状態じゃあないですか。くそう、だーりんて呼ばれるとか、どんなエロゲの主人公だい!

そして、反転といえば表紙のお嬢さん。十香を助けるための戦いがもう一つの主題ですね。希望が絶望に変わっての闇落ちとか、予想されていましたが、それを予期して人為的に発現させるウェストコットの目的は一体何なのか。本当に、この世界そのものを転覆させようかとしているのか、口絵の表情とか見てると戦慄しか覚えませんね。そして、魔王化した十香の力のすさまじさよ。AAAランクの精霊が魔王化したからこそなのか、それとも闇落ちすると攻撃にステータス振り切れるのか謎ですが、他の精霊を差し置いて十香をターゲットにしたということは、彼女にはそうするだけの価値と力があるってことなんでしょうね。そして、他のキャラが同じように絶望し闇落ちしたとなったらそれこそ、世界は終わりそうな予感が。士道の周囲に集まり、彼に好意を抱く精霊たちを簡単に絶望させようかと思ったら、やはり今回のように士道の命を餌にするのがもっとも有効なんだろうなあ。そうなったら、十香と琴里は確実にまた大変な事になりそうだな。世界が終わる……。

精霊を生み出した始原の精霊。それを知る第二の精霊と、狂三の目的を通じて物語の核心もだんだん見えてきたようですね。士道の出生にもやはり何か秘密があるようだし、それがそのままDEM社と〈ラタトスク〉の因縁にも繋がっていそう。大きな試練を越え、また一時の平穏を取りもどした士道たちですが、彼らを巡る状況はさらに予断を許さぬものにシフトしていきそうですね。

そして、出撃してはやられっぱなしの鳶一さんも、このままだと精霊化しそうな気がしないこともないですが、彼女が絶望するとしたら、それこそ彼女自身の無力さになるのかなあ……?

hReview by ゆーいち , 2013/04/01