いいんですよ。皆が忘れても、私はあの子のことを覚えている。それでいいじゃないですか。
少女たちのほんわかした日常や、不思議な縁や、やっぱり殺伐とした事件などなど、エピソード山盛りでお届けします!
本編と合わせて楽しんでいただきたい一冊ですが、この本からシリーズを読み始めるというのもアリ、かも!?
かつて確かにあった少女たちの日常。
宝島社から献本いただきました。毎度ありがとうございます。
Web掲載作品から描き下ろしまで、『魔法少女育成計画』『魔法少女育成計画Restart』に登場した多数の魔法少女、合計33名が登場する短編集。33本の短編が掲載されるかと思ったらさすがにそんなことはなかったんだぜ?
ああ、こういう少女たちの平和だった日々を見ると、本編の絶望がさらに深まるというか、あれが悪い夢だったんじゃないのかとか、そんな風に思いたくなってしまいますね。前日譚をこういう形で見せられると、あの、殺し殺されるデスゲームのやるせなさは、本当に救いがないものだったのだと思い知らされます。正確に言えば、Restartで生き残った数名が帰還できた日常は、この本でも語られ、取りもどすことができた当たり前の毎日がどれだけ尊いものなのかを静かに伝えてくれてもいるのですが。
そして、短編で、異なる物語に登場したキャラクター同士の関係を描くという本作のコンセプトは興味深いですね。もともと、登場人物が多く、1~2冊の分量ではそれぞれの掘り下げがなかなかできないというのが、個人的には不満というか物足りない点であったので、この短編集でかなりそういう人間関係が補完できた気がします。物語的にはそれぞれ独立していてほとんど共通項のなかった一作目とRestartの魔法少女たちに意外な関係があったり、登場直後に退場してしまったキャラにも実はこんな物語があったのかと、そんなことを気付かされます。
ああ、しかし、クラムベリーのラスボス感たらないですね。あちこちで殺し合いを行わせ、生き残りの記憶を奪う悪行。それに生き残った@娘々の短編はかなりシリアスで断片的な情報ながらも、彼女の境遇の救いのなさが引き立てられてますね。あちこちで影を落としシリーズ通じて諸悪の根源みたいな扱いですが、ホントろくでもないことをしてくれたものです。
そして、Restartのデスゲームを仕込んだキークの小物感がひどい。自分の理想を押しつけて、それをあっさり否定されたからって、デイジーを最初に陥れようとするとか、なんという逆恨み。このときは、そんなことになるとは、おそらく本人も含めて想像していなかったでしょうが、空回りする自身の正義感が、だんだんとキークの心を歪めていったことが容易に想像できるエピソードですね。まぁ、日曜の朝から反社会勢力を虐殺する魔法少女ってのもどうかと思いますが、それをいきなり平和的なアニメに改編するとか、荒れるのも仕方ないですよ……。というか、何気にジェノサイ子さん、こういうオタ系の話題によく絡んできてますな。
ジェノサイ子さんが登場するお話で印象的なのは、ラ・ピュセルを主人公に、本体である颯太が変身した姿でオフ会に参加するお話。いや、内容自体は割と短めですが、ジェノサイ子さんにメルヴィル、黒幕のクラムベリーと入り組んだ人間関係もさることながら、ラ・ピュセルのサービスシーンが美味しすぎる。何この魔法少女の嬉し恥ずかしな痴態は。これまでの挿絵の中で最大の肌色率。それの本体が男なんてなあ……私は一向に構わんッ!
他にもリオネッタとリップルの邂逅とバトルとか、報われなかったねむりんの夢とか、出てきて速攻退場したアカネさんのまだ壊れてなかった頃の在りし日の姿とか、その他諸々、懐かしく感じるお話が多いですね。
最後に用意されたのが、生き残ったクランテイル、プフレ、シャドウゲールの帰還した日常のお話なのが、ほっとするようで涙が出るようで。望まない命がけの戦いだったけれど、そこで生まれた絆は偽物ではないと感じられる、あの殺伐とした戦いの後に語られるには、本当にささやかな普通というかけがえのない時間。本編読了後とはまた少し違う感慨を抱く、素敵な物語でした。
本編読んだ方には、ぜひオススメしたい小粒な物語をぜひご堪能あれ。
hReview by ゆーいち , 2013/04/04
- 魔法少女育成計画 episodes (このライトノベルがすごい! 文庫)
- 遠藤 浅蜊 マルイノ
- 宝島社 2013-04-10
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