信じていたよ。あなたはきっと、生きていると。
壮大なファンタジー叙事、薄闇の底で真紅に燃える刀身を打つが如き“鍛錬の刻”!!
発売から3年近く積んでました。いやー、無事に本編が完結したということで一気読みしようかと思いまして。さすがに話し忘れてるかなあと思ったらけっこう覚えてるものですね。とはいえ、過去の自分の感想見直したりしてみたり。
セシリーとルークの恋人という言葉では足りないくらいの強い結びつきは、お互いにはっきりと宣言しなくても周囲には分かっているけれど、それを二人が今以上に踏み込もうとしないのはルークの魔剣精製の代償として、視力を、ひいては己の魂を代償としているため、未来がすでに閉ざされてしまっていると彼自身が諦めているフシがあったというのも小さくない理由の一つだったんでしょう。前巻から引き続き、火山内の洞窟にユーインとともに閉じ込められ、極限状態においてむき出しになった感情をルークはユーインとぶつけ合い、やけくそな状態なのかも知れませんが、生きるということに執着を見せてくれるようになりましたね。もっとも、彼の生きる目的である聖剣を成すことを最優先に設定し、結局自分ではセシリーを幸せにできないからと、目の前の幸せを掴もうとしない彼自身のプライドはまだジャマしているような感じですが。
それでも、ここまでくると、二人は不可分なものとしてしか考えられませんよね。周囲がそれを当然のことと思っているのは、二人の家に課せられている呪いじみた使命と因縁が断ち切られていないからではなく、二人のこれまでが、お互いがお互いの欠けた部分を補い、ここまでたどり着いた、その事実があるからでしょう。3年という時間をかけ、ルークの業と技がかつてまったく歯が立たなかったヴァルバニルの末端を倒すに至ったこともそうだし、セシリーが魔剣アリアの助けがなくても一戦で戦えるだけの強さを身につけたこともそう。お互いが出逢わず、一人で研鑽を積んでいただけではおそらくは届かなかった境地、そこに二人で至っているそのことこそが、決して分かつことのできない強固な絆となって見えているように思うのです。
しかし、やはり残されている時間は決して長くはないようです。今回の事件で決定的に視力を失ってしまったルーク。悲壮な思いでルークに向かい合ったセシリーも、その致命的な喪失にようやく気付きました。失われ、取りもどすことができないもの。もはや、彼が彼女の姿を見ることが叶わないという事実は絶望へと通じているのでしょうか。
hReview by ゆーいち , 2013/04/07
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