ならば迷いはない。かつて救えなかった仲間を、今度こそ救うために。――さあ、今こそ俺の在り方を貫こう。凜菜が取りもどしてくれた、この誓いの言葉と共に。
これで一件落着と思いきや、このソフィアという怪人の少女は橙也に付きまとうようになる。なにか面白くない凛奈。逆にそれを面白がるDH学科三馬鹿トリオが加わり、お子ちゃま少女凛奈はさらにもだえるのだった。
そんなラブコメ青春を謳歌する橙也たちの一方、実はソフィアには重い使命があった。その裏にはワールドクラスの組織も関与しているようで。彼らの存在に気付いた橙也は、かつての仲間を見捨てられないと動きだすのだが!?
[tegaki font=”mincho.ttf” size=”36″]正義 vs 悪の味方!![/tegaki]
いやぁ、今回も燃えた。このシリーズは妙に相性が良くてぐんぐん好きになっていってますね。
弱小悪の組織の最後の生き残りが、正義の味方養成学校に入って、正義の味方に転職。もちろん、過去を隠し正体を偽り、ダークヒーローの道を着々と歩んでいる燈也と凜菜の前に、現れたのは、燈也のかつての同僚・ソフィア。てっきり冒頭のモノローグからは、彼女、燈也を憎んでいるとか思って、彼がゼロウ・ファミリーの元に流れてくるまでにはそれはそれは悪の組織らしい血で血を洗うような内部闘争でもあったのかと想像していたら……。
この世界の悪はなんと優しいのやら。いや、悪が悪として裁かれ切り、生き残った残党が大きな悪事を働くことさえ満足にできないような世界観になっているとするなら、もはや悪の組織やら、怪人やらは記憶の中からも忘れ去られるだけの「かつて正義の敵だったもの」という意味合いしか持っていないのかもしれません。けれど、正義が正義であるためには、輝くためには相対しなければならない者が要る。次第に、着実に絶滅しつつある悪の芽を摘みきったときに、正義が正義であるために、何を求めるか、そのひとつの回答が今回のエピソードなのかも知れません。
かつて悪の組織に属していたソフィアを、およそ正義とはほど遠い契約で縛り、彼女のささやかな願いを踏みにじる、一顧だにしない、無価値だと断ずる。今回登場した「正義」の体現者は、やってることを見るとその言葉の意味がうさんくさく思えること間違いなし。目的のためなら手段など選ばない。勝てばよかろうなのだあ! なやり方はせいぜい三下がやっていればいいんです。こんなことを肯定している正義の組織というのも正体が知られたら、今度は逆に悪の烙印を押されてもおかしくないんじゃないだろうか、と。そして、かつて悪だった者は改心することさえも許さないとか、どんな傲慢だよと。正義を敵方の視点から見るとここまで悪く見えるのかと、軽く引きますねえ(笑)
まぁ、燈也の視点を通してかつての仲間が描かれてる段階で、どちらの肩を持つべきかなんていうのは考えるまでもないんですが、三大悪の組織だった凜菜の祖父のゼロウ・ファミリーも、燈也やソフィアが身を寄せていたヴィランの系譜も、その在り方を見ると秘密結社(笑)みたいな扱いなんですけれど!? メンバーを
まぁ、それはそれとして、主人公の燈也。前巻から引き続き、怪人として、仲間を守れなかったことを悔い、自分を犠牲にすることを何でもないと達観しているような人物かと思っていたら、そんなことはなかったんだぜ? 他人には諦観じみた表情や言葉を投げかけるくせに、彼自身はそれをまったく自覚していなかった、というか表情の作り方で失敗していたとか。自分の普通が他者の普通と違っていたということを知らず、結局誰かを傷つけその涙を見るまで気づけなかった、確かに大ばかですが、けれど、彼がその生き方を貫く理由と自然体であろうとする思いは、彼が振るう業火とは違って暖かなもので。誰かの味方をするという生き方、それが悪だった女だろうと、正義の味方の味方を自称する少女だろうと、救いたいと思うことが彼の頑張る理由。見た目が異形だとしても、その心根の優しさを、うわべだけの正義が否定していいはずがないと強く思わされます。駆逐され、残された数少ない悪は、もはや悪として成立し得ず、滅ぼされるのを待つだけの状態。そんな一方的な討滅が秘密裏に進行している不健全な平和、その価値への小さな反逆が結果的に始まったようなお話でしたね。
けれど、やはり、この世界の住人たちには怪人という存在は畏怖の対象で、燈也たちの友人でさえも、本性を現した燈也との戦いの理由の根底には「怪人討つべし」という正義の味方理論が働いていて。今回のジャックランタンとのファーストコンタクトを経て、目に見えない形で軋みをあげた友人関係は今後何らかの事件に繋がっていきそうですね。自分の力のなさを痛感させられた姫紗希の、力を求めようとする焦りが、新たなトラブルの種にもなってそう……?
しかし、それはそれとして、どこが弱小悪の組織だ、ゼロウ・ファミリー改め、リナ・ファミリー。総帥は規格外の魔導理論を自由に紡ぐわ、幹部その一のトンデモな戦闘力は天井知らずだわ、さらに加わったソフィアも含めりゃ、速攻、正義の味方が大挙して押し寄せてきそうな雰囲気。今回も存分に存在感を見せつけてくれたロリババアの隠し立てがいつまで通用するか怪しくなってきましたよ? ああ、それと、前巻の見せ場で使われた「呼吸とタイミング」がああいう形で再利用される伏線回収はなかなか上手いなあと。まぁ、万能すぎやしませんかね、というツッコミはしたくなりますが、誰もが成長するものですから。
凜菜も前巻ではそんなに見せ場ないような感じでしたが、今回は首領らしい振る舞いを見せてくれ、彼女もまた、守られつつも自分の成すべき役を勤め上げる気概を得たように思います。祖父から受け継いだ組織ではなく、彼女が彼女の想いで造り上げた新しいファミリーが成す「悪」がどんな形で実を結ぶのか、続きのお話が描かれることを期待しています。
ほんと、面白かった。
hReview by ゆーいち , 2013/04/11
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