16:00の召喚魔法 〈1〉

stars だから、これからは、つらいことは何でも言ってください。わたしたちは、二人で最高の魔法を使えるのですから、互いに分かち合いましょう!

16:00の召喚魔法 〈1〉 書影大

軽度の中二病を患う高校生ヒロキのスマホに、ある日見知らぬメールが届く。
──お願いです! わたしたちを助けてください。
それは、まるで冗談のような異世界からの召喚魔法。ヒロキを召喚したのは『魔力を持たない』天才魔法使い、アリサだった。
「ヒロキさんのこと、触れて、味わって、感じて、もっと知りたいです!」
異世界を覆う災厄ヴィクティマと戦う救世主となったヒロキと、その首筋をカプカプ噛み、頬をぺろぺろ舐め、五感をフル活用してヒロキを「研究」し尽くすアリサの、カラダ密着型ファンタジー開幕!

あらすじで期待したほどのえろえろーなシーンは思ったより少なかったよ!?

分類としては異世界ファンタジーの俺TUEEE系なんでしょうか。古き良き時代を彷彿とさせるようなお話で、わかりやすすぎる分、今のご時世だとありきたりすぎて普通にしか見えないという、ある意味残念なお話でした。

いや、いろいろと差別化しようと工夫が入っている部分もあるんですが、それがなくても物語は成り立つんじゃね的なものが多くて、特に斬新だとか感心させられたというのはなかったんですが。現代と異世界という表裏一体に見える世界をインフラヴァースとスープラヴァースと呼んで、異世界の側の方が文明的に発展しているように見えるのは気になりましたが。普通、剣と魔法のファンタジーって機械とかそういうのの発展は現代世界より遅れているのがよくあるパターンですが、本作においては機械機構の動力は別としながらもほぼ同じ原理で動いているという都合の良い物理法則で支配されているようですね。

現代においては一切役に立たない膨大な魔力を秘めた主人公・ヒロキと異世界において、知識と技術は他を圧倒しながらも魔法の根源である魔力がないため一切の魔法を使うことができないヒロインのアリサ。この二人が、お互いに欠けているものをお互いで補いつつ、世界を救っていくというのが物語の構造になるんでしょうけれど、1冊ではその導入部分を描くのがやっとというのが正直なところでしょうか。

そもそも、ヒロキが現代と異世界を自由に行き来できるためか、二つの世界の人間関係を描くための文量が圧倒的に足りないように感じます。冒頭で割とヒロキの生活と、人間関係、彼が過去に野球をやっていて、けれど今は理由があって止めているなんていう伏線も描いておきながら、それが本編にあんまり影響していないのが気になるなあ。ヒロキ自身、軽度の中二病を患っているせいか、今の生活よりも見知らぬ異世界での生活に心躍らせ生まれ変わったようだ、みたいな描写をされると、彼を何とか引き留めようとしている幼なじみのサイカの立場とかが泣けて仕方ない。幼なじみ好きなんですが、それがこういう涙を呑むポジションだと切なさ倍増ですね。ヒロキの夢の中で登場したりと、ページ数稼ぎの描写じゃなければ伏線と取れるようなシーンもあるので、そのうち彼女も異世界でアリサと対決してヒロキを取り合うなんてラブでコメな展開になってくれればと思わずにいられません。この巻だけの描写を見ると思いっきり捨てられてるんでウボァとうめいてしまうんですが。

けれどやはり繰り返しになりますがページ数が足りない。ヒロキの救世主としての活躍の第一歩としては、大きな戦果を挙げ、そして手痛い失敗を経験し挫折、そしてヒロインのピンチに再起するという王道な展開を見せてくれますが、終盤の駆け足過ぎる流れが本当に残念。むしろ、エピローグのうさんくさい政治勢力の闘争をばっさりカットして、主人公の活躍と戦いをもっと描いてくれた方が盛り上がったんじゃないかと思うくらい。この世界、スープラヴァース、滅亡の危機に瀕していながら、それでも政治的な理由で足を引っ張り合うというどうしようもない部分がまったく解消されていないという、見方によっては救えない世界に見えてしまいますね。そんなのは、世界を救ってからにしろと突っ込みたくもなりますが、最大派閥がこうなんだから、人間達が追い詰められているのも仕方ないんじゃないかって思ってしまうなあ。

そして、偶然、救世主になったわけではないヒロキにも秘められた何かがあるようで。そういう設定を用語集とか本編とは別の場所で語るのがアリなのかどうかという疑問はありますが、ヒロキの血統にも秘密があるという。後付けで、「実はすごい人の血を引いていたんだよ!」、「ナ、ナンダッテー!?」よりはまだ誠実かもしれませんが、結局は俺TUEEEのテンプレを脱することができてないような……。まぁ、その能力を開花させるために、ヒロインとえろえろなことをしつつ戦っていくのなら、まぁ、よし。手を繋ぐ以外の接触の仕方って、もう、アレしかないでしょ。18禁的な意味で(笑)

カラー口絵とかでもイラストのrefeiaさんが大変良い仕事をしてくれてるので、もっと露出の多い過激なイラストも期待したくなるのですよ。続巻では開き直ってギリギリを攻めてもらいたいものです。

あと、主人公のビジュアル、普通すぎて逆に違和感を覚えるレベル。個性の塊のような主人公像からすると印象に残らないのは斬新だけど、プラスに働いていないよねという。これは血が目覚めることで見た目も変化するというフラグですか?

hReview by ゆーいち , 2013/04/27

16:00の召喚魔法 〈1〉

16:00の召喚魔法 1 (オーバーラップ文庫)
木緒なち refeia
オーバーラップ 2013-04-24