この世界は、お前が思っているよりも希望が在る。俺はそう信じてる。人間は、なんだって愛せる。ロボットだって、グロアロイドだって、愛せるさ。
空から美少女が降ってくるなんて、なんてベタな! と思わずにはいられない冒頭シーン。
ぽんぽんと場面が移り変わり、スピーディに物語が進行してきますが、そのテンポの速さに少し戸惑ってみたり。明確な章立てはあるものの、その間の場面転換が思った以上に早く行われていくので、すごい勢いで話が進んでるような感覚を得ますね。1行で次の場面に移ってみたりと、カット割り的な構成が特徴的かなと。なんだか新鮮。
大筋は主人公の隼人と、彼が出逢う不思議な少女・フラウの物語。フラウを狙う集団から訳も分からず彼女と共に逃げる中で、フラウという存在に隠されていた秘密も明らかになっていって……。
万能に思える素粒子・グロアが存在するという世界観を下敷きに、その上になり立つすこし不思議な物語。アクションあり、ラブコメあり、バトルありお涙ありと、1冊の中でいろいろな味わいができるようになっていましたね。
逃げ出したフラウを捕まえるために躍起になるビショップの追っ手たちは、隼人たちから見れば悪役ですが、完全に悪といえるくらいに悪い感じはしなくて、なんだか仕事だから仕方なくやってるような印象を受けて妙な共感を覚えます。なんか、いいところまで二人を追い詰めるのに、一歩間違えばギャグになるような失敗で出し抜かれることの繰り返し。昔懐かしいアニメーションを見ているような展開ですね。
グロアが満ちる街。グロアポリスとリンクし、街そのものと言ってもいいような存在のフラウ。彼女が得た感情が、街に予期せぬ影響を与え、危機をもたらすことを回避するために、彼女と外界の接触を断ち、隔離するという追っ手の切り札である京子。彼女とフラウの関係になんとなくピンと来ながらも、ラストバトルにもなる彼女と隼人の対峙はお互いの感情のぶつかり合いですね。どちらが一方的な正義ではなく、お互いがフラウのためを思った最善を選ぼうとしながら正反対の方法を採ってしまったために対決せざるを得なかった二人。青臭い理由だけれど、ひと一人が誰かを救いたいなんて理由は、世界を救うなんて高尚なものよりも「一緒にいたい」とか「好きだから」とかそんな簡単なものでいいんですよね。ありきたりな答えだけれど、それはずっと昔から受け継がれてきた真実の一つかも。最後、お互いが分かり合うんじゃなく拳で問答無用で殴り飛ばして決着、ってのは別の作品を彷彿とさせますが、正直やり過ぎじゃないかと苦笑してしまったり。
そんなシリアスな戦いがあるなか、フラウのゆるさは貴重ですね。チーズ蒸しパンで大ピンチが回避できたりと妙にユルいところもあったりと、この作品はシリアス寄りというよりも、これくらいのお気楽さで受け止めるのが妥当なのかも。隼人を中心に、魅力的なヒロインたちも多くいるし、ラブコメ方向でも期待が持てる世界です。
そして、最後の最後では、そんな甘い世界の裏側にある大人の世界の薄暗さにぞわぞわする感じです。能力至上で子どもであっても才能があれば大人を従えられる世界、子どもでありながら大人の論理で動いている謎の少年の動向とか、きな臭い感じがぷんぷんです。先を気にさせる締めで続いて、導入としては期待を盛り上げてくれます。隼人の能力とか、結構重要な伏線になっていそうだし、この世界、まだまだ奥が深そうですよ。
hReview by ゆーいち , 2013/05/20
- 超粒子実験都市のフラウ Code‐1#百万の結晶少女 (角川スニーカー文庫)
- 土屋 つかさ 植田 亮
- 角川書店(角川グループパブリッシング) 2013-03-30
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