はたらく魔王さま!〈3〉

2018年12月27日

stars 大切なものを失った気持ち、少しは分かった? 分かったなら、今度こそ大事にしなさい。

はたらく魔王さま!〈3〉 書影大

魔王城(築60年の六畳一間)の庭に、異世界からのゲートが開く。そこから現れた小さな少女は、魔王を“パパ”、勇者を“ママ”と呼んだ。まさか二人がそんな関係だったなんて……とショックを受ける芦屋や千穂。だが、一番混乱していたのは魔王と勇者だった。
少女は魔王城で預かられることになり、真の意味で大黒柱となった魔王は、子育てに挑戦。さらに、親子(?)三人でのおでかけもあったりで、恋する女子高生・千穂は、やっぱりヤキモキしてしまうワケで――?
フリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー、波乱必至の第3弾!

魔王と勇者、共働きになる。

っておい! 魔王城の人口密度の増加がとどまるところを知らないですね。この調子で、アパート全部関係者で埋めちゃえよ、もう。大家さんいないから、入居が出来るかどうか分からないけれどね!

いきなり現れ、真奥と恵美をぱぱ、まま、呼ばわりする少女・アラス・ラムス。エンテ・イスラの関係者なのは丸わかりだけれど、誰の関係者なのかがよく分からない。真奥はなんとなくその正体に感づいているようだけれど確証はなく、なし崩し的に、彼女の面倒は魔王城で見ることに。

ああ、もう、強引にアラス・ラムスに両親扱いされ、いやいやながらも夫婦の振りをせざるを得ない魔王と勇者の姿ににやにやにやにや。天敵同士のはずなのに、ハタから見るとケンカ友だちのような距離感を感じる真奥と恵美は、今回のエピソードを通して、お互いが今まで知ろうとしなかったそれまでの自分を少しずつ明かしていくように……。知られざる魔王サタンがいかにして魔王になったのか。かつての魔界事情とか、おそらくは人間サイドで知っていたものがいないであろう事情が語られるにつれ、〈魔王〉という肩書きがいかなるものなのかがどんどん分からなくなっていきますね。字面とイメージ通り、人間に敵対する悪魔たちの王の意味でもって彼を見ていた恵美だけれど、無力で弱かったサタンが生き抜き王になるきっかけを得たそれまでの彼の生き様は、魔という言葉からはとても遠いようなものと感じた気がします。決して最初から強者だったわけではないサタン。彼がどうして魔界を統べるに至り、そして、人間界をも欲したのか、その直接の答えは得られないまでも、彼と、彼にきっかけを与えた存在の出逢いを知ると、彼は単純に新しい世界へと至りたかったのではないのかとシンプルに思ってしまいます。

果たして、彼は、今、こうしてエンテ・イスラをさらに越え、人間達の世界で人間として暮らしています。今まで知り得なかった人間の心を知り、感情を覚え、大切な守るべきものを得るという、まるで人間そのものの生活を送っています。世界征服だとかどうとか、今まで口癖のように言っていた言葉もずいぶんへってきたように感じます。それが、彼の本質にとって好ましいかどうかはともかく、周囲の人たちにとっては好青年な真奥こそが彼の本性であると信じたくなっても仕方がないくらいに、彼はいい奴になってきてるんですよね。

だからこそ、今回で異世界の事情、あるいは天使や悪魔、伝承にある大魔王の名など、ファンタジー要素が明かされてきたことがなにやら転機を予感させるんですよね。勇者でさえ知らなかった聖剣の謎から始まり、次は彼女の両親についてのあれやこれや? 亡くなっていたかと思った彼女の父親の生存フラグが立っていたりと、それが真実だとしたら、彼女が魔王討伐の支えにしてきたきっかけが消失することになるんですが、彼女はそれでもかの魔の王への憎しみを持ち続けることができるのでしょうか? いや、もう、そろそろ、魔王ではなく真奥として彼を見始めてる恵美だから、それもそれで自然に受け入れ、新しい関係へ進むきっかけにするくらいの潔さを見せてくれるような気もしますが。

天使たちのうさんくさくも、思わせぶりな目的も、まだまだ謎のまま気持ち悪くもありますが、この暖かい魔王城を守るための魔王と勇者の共闘が今後も続くといいですね。

hReview by ゆーいち , 2013/06/04

はたらく魔王さま!〈3〉

はたらく魔王さま!〈3〉 (電撃文庫)
和ヶ原 聡司 029
アスキーメディアワークス 2011-10-08