魔法科高校の劣等生〈10〉 来訪者編〈中〉

stars お兄様、深雪は嬉しいです。お兄様がわたし以外の者にも、情けを掛けてくださることが。お兄様はご自分でお考えになっているよりずっと、人間らしい感情をお持ちなのです。

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西暦二〇九五年十二月。雫との『交換留学生』として、USNA(北アメリカ大陸合衆国)からリーナが魔法科高校にやってきた。達也は、彼女が大規模破壊兵器に匹敵する戦略級魔法師「十三使徒」の一人であることを瞬時に見抜く。そして、同じ時期に東京で発生した『吸血鬼』事件――魔法師の血液を抜き取る連続傷害事件との関わりを探るのだった。『吸血鬼』事件の全容は次第に明らかになりつつあった。達也のヒントと幹比古の古式魔法によって、『吸血鬼』の正体が『パラサイト』と呼ばれる『魔性』であることを突き止める。
しかし、別次元から意図せずに招かれたその『来訪者』は、ついに魔法科高校に襲来する。その『吸血鬼』の正体(宿主)は、意外な人物で――!

リーナはポンコツかわいい。作者公認でポンコツ扱いされるライバルキャラって……(白目

ということで来訪者編の中編でございます。前巻でホラーな展開になるかと思ったら、吸血鬼の正体、パラサイトは異次元生命とかそんなSFチックな方に舵が取られて、そういや、この作品の魔法って割と科学寄りだったなあとか思い出したり。それもこれも、主人公たちのチートすぎる万能さがいけないのだと思います(笑)

次巻がこのシリーズのクライマックスということで、真ん中の巻となるとやはり盛り上がりには今ひとつ欠ける感じ。その分、このシリーズでは珍しくラブでコメディな描写が多かったりして新鮮に感じられましたね。中でも、ほのかさんの扱いがいろいろとひどい。自分では秘めている想いのはずなのに、それが強すぎる余りパラサイトに思考を写し取られ、あまつさえ、それがそこらに転がっていたメイドロボ(違)に乗り移って衆人環視の中で隷属宣言とか、萌えて困ります。従属したいだ尽くしたいだが本心だとすれば、ほのかはとんだドMさんですね。言いぞもっとやれ。

そして、そんなバレンタインイベントでは元会長やら深雪やらからの攻勢もあったりでさすがの達也もたじたじな風味。いつもは超然としてるのに、ここまで立て続けに予想外の展開だと、少しは動揺したりするんですね。学校生活の中、友人もでき今までの殺伐とした生活から変わっていく環境の中、存在しないはずの感情を感じさせる達也の描写がほっこりするかも。冷めて、無感動な主人公だけれど、少しでも人間味が感じられるというのは個人的には好感ですね。その分、また激しい戦いになれば冷徹さが際立つことにもなるんでしょうけれど、ささやかな平和を享受するくらいのご褒美はあってもよくない? とか思いますね。

まぁ、それでも、次巻への引きはかなりの激戦を予感させますね。秘密兵器を従え、戦略級魔法師としての真価を発揮することができるのか? 勇んで戦いを仕掛けたけれど、あっさり返り討ちに遭いましたとかだと報われないなあ。

作中の描写だと、達也は目の前の彼女より、異界の存在のパラサイトへの対策にご執心のようだし。そういう点ではこれまでの無敵ぶりとは違って、努力や修行に苦戦する姿が見れたことも新鮮だったかもですね。彼もまた、全方位で無敵ではなく、まだまだ伸びしろがあり、そして自覚的に成長しようとしているのだと。だからこその最強っぷりなんでしょうけれどね、なんだか少しだけ見方が変わるエピソードでした。

hReview by ゆーいち , 2013/06/12

魔法科高校の劣等生〈10〉 来訪者編〈中〉

魔法科高校の劣等生 (10) 来訪者編(中) (電撃文庫)
佐島勤 石田可奈
アスキー・メディアワークス 2013-06-07