C3-シーキューブ-〈17〉 episode CLOSE / the last part

stars ――お前が最初に作った《間違って当然の私》は……もう、他のたくさんのもので薄まっているのだ。私は箱の形をしているのだからな。中身にぎゅうぎゅうと詰めたのだ。本来の中身がどうでもよくなるほどに。それまでからっぽだった隙間に、ぎっしりと、溢れ出るほど。たとえ、私が生まれたことが間違いでも。私がここにいることは。ここに来たことは、みんなと出会ったことは――間違いではない。それだけは確かだ!

C3-シーキューブ- (17) 書影大

蒐集戦線騎士領に占拠された大秋高校を奪還し、周辺一帯の騎士領化を食い止めるべく反攻を開始した春亮たち。ン・イゾイーほか学校内に残るメンバーとも連携を図り突破口を開こうとする。
しかし、敵は騎士領だけにとどまらず、黒絵を狙う竜島/竜頭師団の師団長も春亮たちの前に立ちふさがる。そして三つ巴の天王山に向け、運命が、呪いを知る《彼女たち》を大秋高校に誘う……。
夜知家の未来を賭けた戦いの行方は、そしてフィアに隠された重大な秘密とは?呪われた道具たちが織りなす物語、感動の完結編!

その生まれは呪いと共に在り、新たな生は祝福と共に在る。

フィアの物語はこれにてハッピーエンド。予想通りと言いますか、それ以上と言いますか、彼女が憧れ続けていた幸せにようやく手が届く、その絵が見られたのはこの長いシリーズを追ってきて良かったと思わせる、まさに大団円であります。

最終決戦については、騎士領の領主はともかく、師団長の方どうするんだ、倒しようないじゃんとか思っていたらなんという発想の逆転。黒絵さんグッジョブです。バトルジャンキーなくせに愛で縛られるとか、最強に最も近いはずの男に跳んだ弱点があったものです。いや、そうでもしなければ、多分彼を止めることなんて誰にも出来なかったんだろうし、そういう意味では、ペンドラゴンはまさしく本作中で最強の存在だったんだろうなあ。

逆に騎士団の方は単純に厄介極まるという印象が。騎士領化でスペックアップされた雑魚どもは、RPG 終盤ででてくる雑魚と同じように単体でならどうとでもなるんだろうけれど後から後から湧いてくるのがうざいことこの上なし。春亮たちも様々な助力を得て、人間も禍具もひっくるめて、これまでの縁で結ばれたオールスター的な戦力で攻め込んでいるが決め手がない。そんな中で復活のタイミングを計っていたかのように登場する、思い出深い存在、藍子の再登場は待ちかねたぞと拍手喝采です。こんな場じゃなければ再会をもっと喜び合えただろうに、そのシーンが見られなかったのが残念ですがエピローグでいろいろ想像できるので満足かな。

そして、フィア。終盤では自身の在り方を根本から否定され、そして春亮を傷つけるという致命的な過ちでヒキコモリになったりしましたが、すべてを受け入れ、そして自分という存在に決着を付けるまでに強くなった彼女の成長が、この物語の全てだったんだなあと感慨ひとしおです。自分の想いを遂げながら、それでも、根本から呪われている自分の大望を果たすためには、今の幸福を手放さざるを得ない。彼女が免罪符機構を全てその身に納めたときにどうなるかという結末を、私は死であると想像していましたが当たらずとも遠からずといったところでしたか。その悲壮の決意が果たされ、アンハッピーエンドで終わったとしてもこの作品らしいなと思ったかも知れませんが、藍子の復活があったからには、そんな結末を甘んじて受け入れる必要はないんですよね。

呪いと対極にある正の想念。それが幸福であり、誰かから想われる愛というくさい言葉であったとしても、フィアが得たその気持ちが、フィア自身を救う。罪を重ね、罰を受けたフィアが、ついに報われるラストシーンはやはり良いモノです。物語の始まりを思い起こすようなラストシーン。彼女の口から出た言葉はまさに幸せな嘘であり、それが叶えられないと理解しているからこその笑顔なんでしょう。

彼女がどれだけ時間を過ごしたか明確には語られてないけれど、春亮たちが大人になるくらいには待たされた長い時間。それを取り戻すため、また騒がしい日常が戻ってくると思うと、これからの夜知家の幸せさがありありと想像できますね。春亮を巡る恋のバトルはなんとなくフィアの勝ち逃げになった感じでもやもや未消化だったかもしれないヒロインたちも、これからまたラブコメな展開を再開するのかも? そう考えると、それからのお話を短編とかでも見てみたい気がしますが、そいういうご褒美があるといいですね。

17巻に渡る長いお話の完結お見事でした。打ち切りの憂き目に遭った魔女カリも復活してくれないかなあ……。

hReview by ゆーいち , 2013/06/15

C3-シーキューブ- (17)

C3-シーキューブ- (17) episode CLOSE / the last part (電撃文庫)
水瀬葉月 さそりがため
アスキー・メディアワークス 2013-06-07