リコ、レグ、ナナチの三人が辿り着いた深界六層“成れ果て村”。
離れ離れになった仲間二人を探す途中、リコは村の端の『目の奥』と呼ばれる場所で、捕らわれの女性・ヴエコと知り合う。
ナナチを取り戻すべく、ファプタの素性を尋ねるリコに対し、かつての三賢・ヴエコは村の成り立ちに関わる、壮絶な過去を語り始める――。
隊長のワズキャンのもと、過酷な冒険を続けたガンジャ隊の末路とは…!?
欲望と諦観が入り混じる大冒険活劇、第八巻!!
ガンジャ隊の末路と成れ果て村の誕生
まるまる1冊を使って語られる、遥か昔にアビスに挑んだガンジャ隊の行く末と、謎多き深界六層に存在する黄金郷(?)“成れ果て村”誕生の秘密。
エグい、エグすぎる……。
これまでも大概な展開が多々ありましたが、ガンジャ隊で三賢と呼ばれた、ベラフ・ワズキャン・ヴエロエルコの末路はじっくりと描かれるだけあって、悲惨というよりも悲劇に近いように感じました。
作中の実時間からどれくらい昔に、ガンジャ隊の壊滅劇が起きたのかも定かではないですが、村の規模の拡大具合を見るとゆっくりと時間をかけて今の規模になったのは想像に難くないですね。
成れ果ててしまったものも、狂おうとしても狂えなかったものも、どちらも生き残ってはいるものの、もはやこの地に囚われてしまって、人として、あるいは探窟家としては終わってしまっているため、過去の夢や野望に燃えていた人であった頃との落差をより強烈に突き付けてきています。
何よりも、成れ果て村の成り立ちそのものが通常の感覚からするとおぞましく、けれど、過去のエピソードを知ってしまうとどうしようもなく悲しい存在であるという、これまた「メイドインアビス」らしい存在でありますね。
ヴエコが大切にしたかったイルミューイの成れの果て。村そのものが生きていて、生態系を成しているとか当初は想像も付かなかったですよ。そして、成れ果ての姫「ファプタ」との関係性についても、ようやく合点のいく理由が語られたわけですね。
言葉を話すこともできなくなり、願った夢をまったく望まぬ形で繰り返し繰り返し叶え続けさせられたイルミューイ。前巻でヴエコの言葉にあった「踏みにじられた」「わたしの」「かわいい」「かわいそうな」イルミューイの真実は「どうしてこうなった」と思わざるを得ないような出来事の上にあったのですね。
それにしても、今回の表紙……本編との落差が激しすぎでしょう。いや、確かにこのような穏やかな時間も確かにあったんでしょうけれど、アビスの深層ではそんな時間が長く続くことはあり得なかったのです……。
そんな絶望の果てに生み出されたファプタと村とその住人たち。その地を新たな故郷にするために手段を選ばず人であることさえ捨てたワズキャンたちと、何もすることを選ばず想い続けることを選んだヴエコ。そして、悪夢と絶望と狂気の中で生まれた闇の中の光・ファプタはイルミューイが言葉にできなかった望みを実現するためだけに今生きているのでしょうか。村を根絶やしにするという彼女の願いと、レグがどのような関わりを持っているのか、今度はそこが気になって仕方ありませんよ!
ある意味全ての元凶? の三賢たち
ワズキャン
常に笑みを絶やさないようなイメージの人物ですが、どう見てもやべーヤツですよ。未来を見通すような予言じみたことを言っては隊を導き、それはそれで好きリーダーだったのでしょうけれど、深層に到着してからはもはや通常の人間の思考からは早い段階で逸脱してしまったように見えます。
あるいは、その予知で自らの行く末を知ってしまったために、自覚なく狂ってしまったのか。深層の呪い、人間性の喪失、人としての在り様を大きく塗り替えてしまうアビスの呪いの形としてこのような精神の変容があったとしてもおかしくはないですよね。ボ卿ことボンドルドも精神性は人間と判断されなくなったとか自分で言っていたし、深層にたどり着くような人間はやはりどこか壊れてしまうのでしょうかね。
同じように見える言葉のないワズキャンの微笑みですが、そのシーンごとに裏を読もうとすると大事なことを言わず誤魔化しているようにも見えてしまいますね。
人であることを止め、成れ果てになっても生き続けようとした彼の望みは「故郷のない自分たちにとっての故郷を作る」それだけだったのでしょうか?
この辺読み込みも足りずなんともモヤモヤしますし、彼の思考は理解できそうにないですね。
ベラフ
ガンジャ隊の中でも最も理知的な存在かと思っていましたが、彼は成れ果てとなったあと、喫ミーティなどをしてしまうとんでもない存在になっていることを忘れてはなりません。人であった頃、イルミューイの……を食べてしまったことで、彼もまた壊れていったのでしょうか。
人の姿を捨てるシーンでも、自分を罰して殺して欲しいと懇願していましたが、自らを捧げた後にあのような姿になったことを、彼はどう思っていたのか。あの時点で人ではなくなり、価値観などもまるで違う存在になってしまったのでしょうか。彼らしさの残滓は今もあるように思います。
成れ果てとなったベラフがミーティに固執したのはミーティの美しさが、彼の価値観に合ったものであったため、複製したミーティを手に入れるなんて暴挙に出たのでしょう。
彼にとっての美しいものは姿形ではなく「眼」……「眼差し」であると語っています。かつてリコが夢の中で見たミーティの瞳は憧れに溢れていたと彼女は語っています。それが、ベラフにとってこの上なく美しいもの、価値のあるものと判断されたのでしょう。彼は自制心があるようでいて、欲に抗えない弱さも持ち、それに苦しんでいたような描写もあるので欲深くありながら、その欲に素直に従うことのできない矛盾と苦悩を抱えた人物だったように思えます。
まぁ、今の姿になってからの言動は、度し難いとしか言いようがないですが!
ヴエロエルコ
悲惨な境遇で闇の中でひたすら生き続けていたら、そのまま闇に囚われてしまった人。
けれど、彼女が見つけた暖かな闇・イルミューイの存在は、それでも彼女にとっては救いだったのかもしれませんね。
けれどそんな大切な存在も他者によって踏みにじられ、イルミューイを救うこともできず、自分を捨てることもできず、ただただ状況に流され続けるしかなかった彼女。
絶望の前に狂ってしまえればと望んでもそれすら叶えられない絶望感。イルミューイの一番近くにいたヴエコだからこそ、彼女の母であろうとしたのかも知れないし、彼女の亡くしてしまったたくさんの子供たちの母代わりをしようとしたのかもしれないですね。彼女の一番近く「頭の中」で。それが文字通りの意味というのが、またなんとも……。
そして、ヴエコが今望むのはイルミューイを忘れないことただ一つ。優しげな微笑みではありますが、これもまたゆっくりと壊れてしまった彼女の出した結論なんでしょうかね。
星の羅針盤の役割とは
唐突に再登場した「星の羅針盤」 リコのものは物語開始早々に無くしてしまったのに、ここに来てなんだか重要そうなアイテムとして語られてるじゃないですか。
憧れを餌に望郷を抱くものをアビスに呼び導く羅針盤。探窟家がアビスの意志によって集められるのだとしたら遺物というものが一体どんな役割でもって、アビスから発掘されるのか、その理由もさらに深く予想だにしないものが用意されてそうですね。
最近公開されたインタビューでも、星の羅針盤は大事なアイテムと語られているので、その本当の役割もキット作中で明かされると期待したいですね。
【特別対談】『メイドインアビス』つくしあきひと × 脚本家 倉田英之 インタビュー!
そして今に戻り
長い回想を終え、物語はリコたちの元に返ってきたのでしょうか。
リコとレグ、そしてナナチの冒険がこの先どうなるのか想像も付きませんが、単純な万事OKな解決策はきっとなくて、痛みや傷を得て、それでも進むことを諦めないそんな思いの元で決断が成されるんでしょうね。
さて、次のお話はいつ公開されますかね?
コメント