コミック感想:ぼくたちは勉強ができない(12) 憧れたあの人のような大人になるために ネタバレあり

2019年6月4日

教育大学に進むと決めた成幸は、VIP推薦を蹴り勉強とバイトに明け暮れる。そんな折、桐須先生のフィギュア選手時代の動画がネットに流れ、大騒動に!?

11巻の引きで成幸がVIP推薦枠を蹴ったことが明らかになり、波乱を予感させる12巻。通して見たら表紙を飾る真冬先生のエピソードが強く印象に残りつつも、登場人物のそれぞれが先を見据え、成長していることがよく分かる巻となっていますね。

そして、ヒロインたちの恋ごころの揺れ動きや、そこから生まれる人間関係の変化の予感などラブコメとしてもしっかりとストーリーが進んでいるのが好感です。変な引き延ばしに入らず、目指すゴールを決めているような話運びもテンポ良くて、それでいて、ヒロインの可愛さを余すところなく見せつけてくれるのがお見事すぎます。

天才と並び立つ凡人が目指すもの

成幸の押し殺していた夢がようやく形になり、彼を突き動かしはじめました。もともとVIP推薦を獲得し家計に負担をかけないことを目的に勉強していたようなフシのある成幸。

イヤイヤながらはじめたはずの教育係も、ここに至るまでの道程で、彼女たちの本気に当てられて彼の本気度もとどまるところを知らない様子。勉強ができなかった過去があるからこそ今があり、その今からどのような未来へ向かっていくのかを、様々な人たちとの関係を通して、ようやく明確な目標として設定できたと言ったところでしょうか。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 成幸の目指すもの

教育者という道でどんな人物を目指すのか、成幸が語る人物像は、まさに今までの彼が行ってきた才能ではなく人に寄り添い、できない人間の見方をするというもの。理想論を語っているように見えて、その理想を実践してきて成果を上げてきたからこその現実を見た目標設定。今までどちらかというと周囲に合わせて自分の思いを押し殺してきたような彼からすると、確かに学園長が言うような初めての大きなワガママだったのかもしれませんね。

一方、そんな彼の望みを知った天才たちは

ぼくたちは勉強ができない(12)より うるか スーハー

ぼくたちは勉強ができない(12)より 文乃 スーハー

ぼくたちは勉強ができない(12)より 理珠 スーハー

スーハーしてる場合じゃねえ!!

もう、彼女たちちょっと離れただけで成幸分の欠乏が顕著じゃないですか。やばいやばいかわいいかわいい。

重苦しくなりそうな展開でも、こういう風にちょっとしたギャグを挟みつつ話をまとめてくれるとホットしますよホント。

まぁ、今巻のメインディッシュはこの後なんですけれど。

彼女はいかにして才能の味方へとなったのか

あこがれと現実と

周囲をして氷の女王と言わしめる教師・桐須真冬がいかにして彼女となったのか。ある意味待望の深掘りエピソードですね。

ここに来て、彼女の恩師=成幸の父親という関係性が明かされ、彼女と成幸の間に浅からぬ縁があるとは。なんかメインヒロインて言われてもおかしくないような展開じゃないですかこれ? タダでさえ可愛いシーンではぐっときてしまうのに、そして成幸自身も大人の女性として少なからず意識しているのに、コロッといっちゃってもおかしくないですよこれは。

そんなラブ方面の展開も気になるところですが、桐須真冬という人物がどんな理想を持って教師を志し、そして氷の女王へと至ったのかというエピソードは決して軽くはないですね。教師としての夢の第一歩で、自分を慕ってくれた生徒の夢を叶えることができず、挫折を与えてしまったという悔やんでも悔やみきれない苦い思い出。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 教師としての「才能」がない桐須真冬

その失敗を得て、彼女が出した結論が「人に寄り添う才能」がないということ。才能に恵まれ、ある分野で成功していたからこそ、憧れを持って踏み込んだ世界は、決して夢見たような甘い世界ではないという事実に、彼女の心は凍ってしまったのでしょうか。

ぼくたちは勉強ができない(12)より その問いにどう答えるか?

彼女が恩師に投げかけた問いの答えは、自分自身の背を押してくれたはずなのに、氷の女王としての自分はそれさえも否定してしまう。まるでかつての自身の両親と同じように、人となりではなく「才能」を見てしまう。

ぼくたちは勉強ができない(12)より そして生まれる氷の女王

「才能を持つ者はその才能を生かすべき」という彼女がたどり着いた答えは、自身の失敗と教え子の失敗をこれ以上繰り返さないための、教師としての経験が十分に積み重なっていない時点で出した精一杯のものだったのかもしれません。

成幸との出会い、そして変わっていく真冬先生

真冬先生がいつ成幸が恩師の息子だと気付いたのかは明らかにされていませんが、おそらくは出会いの段階では気付いていたんでしょうね。けれど、それをおくびにも出さずあくまで自身の信念を貫こうとしたのは、成幸の父親の死にも何か思うところがあったからでしょうか。

教師としての彼女と生徒としての成幸の関係性というか相性はそれこそ水と油のようなものでしたが、こと人間同士の相性となると別ですね。

成幸自身、決して学業においても才能に恵まれたわけではなく、父親の言葉を頼りに努力を重ね、答えが出るまで答えを出すことを諦めずに今まで歩んできました。それは真冬先生は一度は諦めてしまった……あるいは答えを出すことを急いでしまったがゆえの、けれど取り返しの付く失敗であることが、成幸の奮闘で証明されます。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 答えは終わってみなきゃ分からない

そう、全部が終わってみないとその選択が正しかったがどうかなんて分からない。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 私の自慢のせんせー

彼女の心に重くのしかかっていた痛みの記憶が、今になって笑顔で肯定されるなんて、想像の埒外だったことでしょう。真冬先生の苦い思い出となってしまった生徒……日野さんとの再会もぎこちない形ではありながらも果たされ、おそらくは長年伝えることのできなかった言葉もついに伝わり、心の底で重しとなっていた氷が溶け華開く、お見事な展開に拍手拍手です。この辺の登場人物たちの表情がもう絶妙で素晴らしすぎますね。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 真冬先生の個人レッスン

ぼくたちは勉強ができない(12)より 氷上に咲く花

ふつくしい……。

幸せになるということ

ぼくたちは勉強ができない(12)より 成幸は誰かを幸せにしたい

最初のエピソードでも成幸は理珠と文乃の「幸せにしてやる」って言ってましたね。そして、今回も真冬先生に同じことを告げてます。成幸自身の名前がそうあるよう願われて付けられたことが容易に想像できますね。そして、彼自身が両親からどれだけの愛情を注がれ育てられたのかということも。

亡き父親が我が子である成幸に注ぐのと同じような愛情を持って教え子たちに接し我が子のように教え導いたとしたら、そりゃあ慕われたことでしょうね。

その愛情の深さは一朝一夕で身につくものではないし、気持ちのコントロールだって大人になる過程で身につけていくものでしょうから。

あれ? でもそういう理由なら、真冬先生、愛情とか持っちゃったらさらに完璧になっちゃいません? 今はまだ生徒との距離感もなかなか掴めずこれから発展途上な感じですが、成幸との関係性もこのエピソードを超えてより深い部分で繋がったような気も。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 真冬先生の笑顔

だってホラ、こんな笑顔初めてですよ初めて! 眩しくて尊すぎて直視できないです……。

頼れる大人がいる作品は良い作品

この作品をはじめ少年マンガというものならたいていは物語の中心にいるのは、少年・少女たちですが、本作ではその周囲の大人たちが適度に彼らを導いてくれてるのが良いですね。一部エキセントリックな大人もいたりしますが(笑)

主人公たちの親たちも、しっかり子どものことを考え、親としての義務を果たす。また、最初は胡散臭かった学園長ですらも、成幸の選択を理解し応援するような姿勢を見せるなど、時にぶつかったりしながらもおおよそ良好な関係の元、健やかに育てられてきているのが分かります。

ぼくたちは勉強ができない(12)より 子供たちにできること

うるかのこの言葉は本当に自分の親を信頼していなきゃなかなか出てこない言葉ですよ。子どもとして何が返せるかをうるかなりに考えて誠実に向き合ったからこそ出た言葉ですよね。こと恋愛方面にはとんとウブな彼女ですが、夢に向かっての姿勢は人一倍まっすぐで輝いてて見えます。それが彼女の大きな魅力の一つなんだと思います。

進路相談は大きな課題

成幸にとってみても当面の悩みはそれですよね。

なかなか切り出しづらい家庭環境で、どのような落とし所を持ってくるのか、次巻以降に持ち越しですが、ようやく成幸が自分自身の夢を言葉にできるようになったからこそ、祝福されて背中を押されて欲しいですね。

うるかの言葉じゃないですが、彼の周囲には彼のことを応援してくれる人たちがどれだけいるのかと、それを知って多少のわがままも押し通してほしいものです。

恋愛方面は一歩も譲らぬ混戦状態

いやもう誰がリードしてるのかも分からないくらい、それぞれのヒロインとのエピソードが尊くてたまりません。

ぼくたちは勉強ができない(12)より いざとなったらあたしが稼ぐ

恋愛方面の描写はやはりうるかが多いような感じはするんですが、

ぼくたちは勉強ができない(12)より わたしもね……よかった

内心の描写は文乃もついに恋ごころを自覚した感が出てきて乙女成分もたっぷり。

ぼくたちは勉強ができない(12)より ただの……ヤキモチです

理珠に至っては自分の気持ちを自覚した上でヤキモチとまで言っちゃってますよもう。

学業という大目標があるから、成幸との関係を積極的に進めようという雰囲気はまだそこまで強くはないけれども、みんなの内心に積もっていってる想いの重みは決して無視できるようなものではなくなってしまってますね。

これからの展開も超期待していますよ。

ぼくたちは勉強ができない(12)より なにゆえー

うん、とりあえず、今巻の引きもバッチリでした。

え、14巻てあの水着回をアニメ化すんの? ヤバない!?