ハーフボイルド・ワンダーガール

stars それに……日本にだって、興信所とは違う、本物の探偵が一人くらい居たっていいと思わない?

ずっと好きだった幼なじみに呼び出された湯佐俊紀が受けたのは、甘い愛の告白などではなく、彼に全く身に覚えのない嫌疑をかけられることだった。その場に偶然居合わせた、ミステリー研究会会長・佐倉井綾の協力を得て、俊紀は疑いを晴らすための犯人捜しを始めるが……。

早狩武志のラノベ第1弾、になるのかな。群青のノベライズは毛色が違うだろうし、この作品で早狩作品に触れるひとも少なからずいるのかと思いますが、私はゲームシナリオの方で知った口なので、何作目かになります。潮風の消える海にはそのうちやりたいとは思ってるんですがなかなか手が出せてなかったり。

そんな背景はともかく、早狩作品だなあという印象が。一筋縄では行かないし、恋の報われなさと、真相に至ったときに明かされるひとの気持ちのすれ違いの悲しさ、一方的に想っていた気持ちがあらぬ形で叶えられたとしても、それは失恋とイコールだったり、と、雰囲気的には『僕と、僕らの夏』を踏まえて、ラノベの流通に受け入れられる程度に持ち味を薄めて出したような。

幼なじみとの恋が叶うなんていうのは、この手の物語では王道のひとつですが、そんな幻想を真っ向から打ち砕いて、自分から行動しなかったことが原因の手痛い失恋を描いてみせるなんて、非常にらしい雰囲気ですねー。また、その辺の描写も生々しくて、突飛な理由だとか、どうしようもない大人の事情だとか、そんなものでなくて、単に主人公が動き出すのがあまりに遅かったがゆえの……、というほんの些細な、だけれど、それは絶対的に取り返しが付かない失敗だったのだなと強く印象づけられてしまいますね。

元凶となった幼なじみな彼女の行動は、なんというか、物語のヒロインらしくないですよね。その辺もらしいキャラ作りなんですが、俊紀に感情移入できていたとしても、彼女の気持ちと行動は、私には斜め上だったかなあ。痛い、痛いよ。

で、そんな手痛い失恋と同時に気付かされるのが、今回の事件に巻き込まれた、あるいは自分から首を突っ込んだかのような佐倉井さんであり、彼女と俊紀の間に生まれた奇妙な連帯感がこれからどう発展するかというのが気になるところですが、なんだかんだで上手くやっていきそうな気はします。けど、作中では、俊紀の気持ちの方向が完全に幼なじみに向かってるんで、完結してようやくスタートしたといったところなんですが。彼女の半分暴走がちな妄想の数々には和ませていただきました。

hReview by ゆーいち , 2008/10/19