神様のメモ帳〈4〉

stars それは、なくなったりしない。ただ、人は道に迷うだけなのだ。そう信じたい。だから僕らは盃をぶつけ合い、のろしをあげる。戦いのはじまりを告げるためのものではなく――ただ、彼方のあの人に、この場所を見つけてもらうために。

四代目が手がける音楽イベントに、スタッフとして関わることになったナルミ。しかし、その運営に付きまとう黒い影があった。次々に仕掛けられる妨害工作。それを指示していたのは、かつて四代目とともに平坂組を作り上げた男・平坂錬次だった。ふたりの間に横たわる因縁。しかし、四代目は黙して語らず、自らの手で錬次との決着を付けようとするのだが……。

いやぁ、続刊が出て本当に良かった!

前巻から1年余、3巻でも物語は良い感じにまとまってはいましたが、今回はこう来たかという展開で、これまた満足度の高い物語でした。

平坂組の四代目こと雛村壮一郎。彼とともに平坂組を作り上げた男・平坂錬次の登場で、一気にきな臭さを増すナルミの周囲。

そして、四代目に見込まれ、彼のビジネスの手伝いをさせられるニート候補生・ナルミの隠された才能が一気に開花する……。というか、その才能をかぎつけ仕事を振った四代目もそうだけれど、十分以上に応えるナルミのポテンシャルもすごい。というか、アリスの周辺のニートたちは誰も彼も一芸に特化された連中なので、その輪の中に居るナルミもまた、ニートたる素質十分てことなのか。ともあれ、不確定だったナルミの未来予想図にぼんやりとした青写真も描かれたような描かれなかったような。

今回は、四代目の過去を巡る物語。四代目にとって、それは決して忘れることなどできない、そして決して誰に語ることもなかったであろう彼と、彼の大切だったひとたちとの思い出。望まぬ決別と、予想だにしなかった再会。かつての繋がりなどなかったかのように振る舞う錬次と、四代目の、今にも途切れそうなその繋がりを再び結びつけるためにナルミが奮闘して。

こうしてみると、ナルミの才能っていうのは対人交渉に秀でてる印象かなあ。誰かと誰かを繋げる、その間に立ち新しい結びつきを生み出すきっかけとなる。偶然の出会いを必然に変えて、二度とないであろう機を逃さずに立ち回るという、彼にとって不本意で、そして周囲にとってははた迷惑な行動が、けれど結果として良い方向に転がるというのは、ナルミの決意と、それを後押ししようとするひとたちの、これもまた繋がりから生み出される力なんでしょうね。

そんなナルミと労使関係というなんともドライな繋がりのはずのアリスもまた、ナルミなしでは満足に生活もできないくらいに依存してる感じ。男女の機微だとかにまったく無頓着なアリスの、無自覚な行動をさりげなくたしなめる彩夏の複雑な心情だとか、自分の行動がどんな意味を持つのかを気付かされて赤面して逆ギレするアリスの様子だとか、ナルミを巡る女の子の気持ちもまた揺れに揺れて答えを求めてるような。ヘタれな主人公がそんな気持ちに応えられるかどうかはなかなか難しいところでしょうが、どちらも大切にしたいなんて生温いことを考えてそうな彼のこと、そのときが来たらどこまでも沈み込んで悩み抜くこと請け合いですね。

微妙にペースを乱されっぱなしだったアリスが、ようやく依頼された四代目からの仕事によって探り当てた真実は、これまたこの物語らしい、真実に気付けなかったすれ違いゆえのやるせないもので。そこに男女間の愛情があり、そして男同士の友情があったからこそ、あのとき交わせなかった言葉があり、伝えられなかった気持ちがある。自らに課した禁を犯してまでもその過去を暴き、告げたアリスもまた、死者の言葉を継げるよりも生者の言葉によって、お互いの繋がりを取り戻すことを望んだからこその行動だったと思えます。

後味の悪い真相と、苦い結末が多かったこのシリーズですが、今回は大団円といっても良かったようなラスト。過去の出来事は消せないし、過ちは償うしかないけれど、生きていれば失ったものは取り戻すことができる、絆は消えることはない。今回、ナルミが東奔西走してまで懸命に結ぼうとしたそれは、きっと、彼にとっても、四代目にとっても、錬次にとっても、アリスにとっても、また、忘れることのない過去の一つとなるのでしょうか。

作中に登場したバンドの素性を想像してニヤリとしたりと、他の作品を読んでいる読者へのサービスも含めて、とても満足した物語でした。

hReview by ゆーいち , 2009/08/12

神様のメモ帳〈4〉

神様のメモ帳〈4〉 (電撃文庫)
杉井 光
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