夢の終わり、そして……

『夢』

『夢が終わる日』

『雪が、春の日溜まりの中で溶けてなくなるように……』

『面影が、人の成長と共に影を潜めるように……』

『今……』

『永かった夢が終わりを告げる……』

『最後に……』

『ひとつだけの願いを叶えて……』

『たったひとつの願い……』

『ボクの、願いは……』

“Kanon” Short Story

夢の終わり、そして……

 冷たい雪が舞っていました。

 乱れた息が苦しくて、早鐘を鳴らし続ける胸が苦しくて。

 何度も何度も膝を着きました。

 髪に降り積もる雪が、肌を刺す風が。

 冷たいはずなのに、冷たくなくて。

 どれだけ歩いて来たのでしょうか。

 あの人は怒るでしょうか。

 きっと怒りますね。

 でも、大丈夫です。

 お気に入りのストールあげたじゃないですか。

 あったかいでしょう。

 私と、大好きなあなたの、思い出の詰まったストールですから。

 だから、大事にしてください。

 だから、許してください。

 それと、プレゼントありがとうございました。

 今までで、一番嬉しいプレゼントでした。

 ちゃんと、お礼ができませんでしたけれど。

 一生懸命描いたんですよ。

 『下手くそ』なんて言わないでください。

 そんなこと言うと、嫌いになっちゃいますよ。

 身体が重いです。

 力がだんだん抜けていくようです。

 もうちょっと。

 もうちょっと、待ってください。

 あと、少しなんです。

 あれ?

 熱いものが頬を伝います。

 どうしてでしょう?

 嬉しいのに。

 幸せなのに。

 最高の誕生日なのに。

 初めて人を好きになれたのに。

 初めて愛してもらえたのに。

 あなたが好きなのに。

 あなたが本当に好きなのに。

 笑わないといけませんよね。

 あなたも私の笑い顔が好きだって言ってくれましたし。

 泣き顔は、見られたくありませんし。

 でも。

 ダメみたいです。

 笑えないみたいです。

 やっぱり。

 悲しいです。

 寂しいです。

 痛いです。

 辛いです。

 もっといっしょに居たかったです。

 もっといっしょに遊びたかったです。

 もっといっしょに学校へ行きたかったです。

 もっといっしょにお弁当食べたかったです。

 もっと『好き』って言ってほしかったです。

 もっと『好き』って言いたかったです。

 もっと。

 もっと。

 もっと愛してほしかったです。

 身体が熱いです。

 涙も熱いです。

 冬なのに熱いなんて、変ですね。

 身体が熱いです。

 あなたに抱かれたときは。

 あんなにも心地好く感じられた身体の火照りも。

 今はただ、どうしようもなく辛いです。

 ホントは死にたくありません。

 まだ、したいこといっぱいあるんです。

 できなかったことがいっぱいあるんです。

 春は、お姉ちゃんとあなたと、みんなでお花見したいです。

 夏は、お姉ちゃんとあなたと、みんなで海へ行きたいです。

 秋は、お姉ちゃんとあなたの、似顔絵をいっぱい描きたいです。

 冬は、お姉ちゃんとあなたと、大きな雪だるまが作りたいです。

 まだ、したいこといっぱいあるんです。

 だから、ホントは死にたくありません。

 だから、ホントは『さよなら』なんて言いたくありません。

 だから。

 誰か助けてください。

 私は、まだ生きていたいんです。

 殺さないでください。

 助けてください。

 誰か。

 誰か。

 私は、まだ。

 生きていたいんです。

 奇跡が。

 起きないものなら。

 誰か。

 起こしてください。

 奇跡を起こして。

 そして。

 奇跡があるんだって。

 私に教えて下さい。

 私は、まだ。

 生きていたいんです。

 もう。

 歩いているのか。

 倒れているのかも分かりません。

 でも。

 やっと着けました。

 私の家。

 私の帰るべき場所。

 お姉ちゃん。

 お父さん、お母さん。

 遅くなって御免なさい。

 今、帰りました。

 お姉ちゃん、怒ってるかな?

 でも、少しだけ怒ってほしいです。

 私たち、姉妹なんですから。

 無視されるなんて悲しすぎます。

 私たち、姉妹なんですから。

 もう。

 ダメなんでしょうか?

 自分の身体が自分のものじゃないようです。

 あはは。

 おかしいですね。

 こんなところで寝ちゃったら。

 ホントに風邪を引いちゃいます。

 あなたに怒られちゃいますね。

 やっぱり。

 あなたにストールを差し上げたのは。

 間違いだったでしょうか?

 私も。

 眠くなってきちゃいました。

 あなたも。

 まだ、眠っているのでしょうか?

 私も。

 あなたみたいに。

 眠ってもいいですか?

 こんな綺麗な雪を見ながら眠るなんて。

 もう。

 できないと思いますし。

 眠ってもいいですよね?

 祐一さん。

 また。

 この眠りから目が覚めたら。

 きっと。

 また。

 いっしょに遊びましょう。

 約束です。

 約束です。

 守ってくださいね。

 私は。

 祐一さんだけのものなんですから。

 ずっと。

 守ってください。

 私のわがままだけど。

 聞いてください。

 白。

 世界が白で埋まっていきます。

 綺麗です。

 でも。

 すごく寂しい色。

 夢の中で。

 色とりどりの景色の中で。

 祐一さん。

 もっとたくさんデートしましょう。

 そして。

 また。

 この夢から目が覚めたら。

 きっと。

 また。

 いっしょに遊びましょう。

 祐一さん。

 祐一さん。

 祐一さん。

 祐一さん。

 ずっと。

 ずっと。

 誰よりも大好きです。

 誰よりも愛してます。

 こんな優しい気持ちで眠れるのなら。

 あなたの想い出と共に眠れるのなら。

 寂しいですけれど。

 悲しいですけれど。

 けれど。

 少しだけ。

 幸せかもしれません。

 だから。

「ありがとうございます」

 声を出すこともできませんけれど。

 きっと聞こえますよね。

 きっと届いていますよね。

 それから。

「さようなら、祐一さん」

『夢』

 ――夢?

『夢が終わる日』

 ――これは、夢?

『雪が、春の日溜まりの中で溶けてなくなるように……』

 ――何も見えない

『面影が、人の成長と共に影を潜めるように……』

 ――この白い世界で

『今……』

 ――聞こえるこの声は

『永かった夢が終わりを告げる……』

 ――誰? 

『最後に……』

 ――私? 

『ひとつだけの願いを叶えて……』

 ――それとも……

『たったひとつの願い……』

 ――あなた、でしょうか……?

『ボクの、願いは……』

 ――あゆさん――

 夢が。

 永かったこの夢が。

 今。

 終わろうとしています。

~夢の終わり~

 そして……。

 そして……。

~奇跡のはじまり~

―了―

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