クライマックス直前。そして、上下巻一気に刊行という荒行を成し遂げながらも、その作風に一片の曇りなし。川上稔氏の実力の深さに畏敬の念を抱かざるを得ない本作。
飛場少年、原川と共にパートナーが世界に関わる重要人物であったために受動的に全竜交渉に巻き込まれてしまった二人が、ようやく覚悟を決める/過去と向き合うという、ある種のターニングポイントも含まれています。
前巻で、Low-Gの謳う正義──全竜交渉の建前──が“軍”により根底から覆され、各Gが再度の交渉を求め、方や決起するもの、方や恭順を続けるもの、ようやくまとまりかけてきた全竜交渉が振り出しに戻るかのような急転直下の展開。覚Vs.ボルドマンや、千里Vs.ブレンヒルトといった、これまで同じ側に付いていた者同士がぶつかり合う展開など、序盤から全く目が離せませんでしたね。
原川は目を逸らし続けていた実父の過去と向き合い、飛場は自らの弱さを自覚し、力を得るために2nd-Gの熱田と対峙する。終盤は飛場Vs.熱田の戦いが描かれ、その絶望的なまでの実力差の中で、最後に飛場が選択した戦術も、過去のさまざまな戦いの中で身に染みてきた経験が、身体を動かした結果と思うと、この長丁場にわたる伏線の張らせ方も見事。ユルいユルいと評され続けてきた飛場が、ようやく確固たる決意を得られたように思えます。完膚無きまでに二度に渡って敗北した長田・竜美との決着がどうなるのかも次巻以降の見所の一つなのは間違いありませんね。
それにしても600ページに渡る大作を一気に読ませてしまうこの魅力はいったい何なんだか。決して分かりやすい文章・描写ではないのに、すいすいと作品世界に没入していけますね。下巻もこの調子で一気に読み上げてしまうことでしょう。
コメント