マテリアルゴースト〈5〉

2013年4月18日

stars 祝 完結! 帰宅部面々の掛け合いはもっと見ていたかったなあ

4巻の衝撃的な引きからどんな風に完結させるか期待半分不安半分だった本作。

蛍の喪失という誰にとってもかつてないほどの大きな痛手を誰もが引きずり、それぞれがそれぞれの方法で彼を悼み、代償行為や逃避、気丈な振る舞いをする中、それでも世界は何事もなかったかのように流れていって。

帰宅部の面々のそんな痛切な内心の描写と、神無の家の深螺や新キャラの雨森、鏡花の奮闘ぶりを交互に描きつつ真相に至る展開。上手いこと時系列を混乱させられてまたしてもしてやられた感ががが。
予定調和的なシーンではありましたが、自ら閉じこもっていた殻を破った先輩のしおらしさは破壊力が高し。これまでの影の薄さを、前巻である『マテリアルゴースト 0』と本巻で一気に挽回した感じ。いいですな。

そんなこんなで、それまでの重みを吹き飛ばす中盤の盛り上がりは非常に気持ちが良くて、やはり作者の真骨頂がこういった軽快なツッコミ溢れる会話で発揮されているなあと、楽しみながら読み進めていけます。死にたがりから解放された蛍のプレイボーイっぷりったらもうッ!! これなんてエロゲ?

なんとも楽しくてにぎやかで、どこまでもいつまでも続いてしまえばいいと思えてしまう楽園のような空間。
そこから外れることを選んだのは、その時間と空間を誰よりも愛おしんでいたはずの蛍とユウで……。

ラスボスたるタナトスとの決戦は、まさに決死の思いで臨むはずのものなのに、蓋を開けてみたら正直拍子抜け。どうも、ボス格のキャラの脅威とか強大さとか、危機感とか、そういったものが希薄であっさり片付いたなあと印象。その実、タナトスの目的が……というのは意外といえば意外ですが、正直この終盤の展開は惜しいなあと。すでに中盤で最高潮に至ってしまったが故に、本来のクライマックスシーンが消化試合風に感じてしまいました。

逆に、エピローグは帰宅部の面々の成長とかを描き過ぎた時間の確かな実感を持って、終わってしまうという寂しさを静かに湛えつつ綺麗に閉幕したなという感じ。誰もが臨むような、大団円的なハッピーエンドの形ではないけれど、かつての死にたがりだった式見蛍という人間が、様々な出会いとか、別れとかを経た先に辿り着いた終着点としては、この上なく暖かで眩しい場所だったのではないかなと。彼の物語としての本作の結末は、寂しいけれども、決して悲しいものではなかったと思えます。

しかし、惜しい。この気持ちいい空気にもう少し触れていたいという思いもまた事実。願わくば、語られなかった時間の補完を、短編集か何かの形で希望したいところ。あとがきとか作者ブログを見ていると、本作絡みでもう少し何かありそう? 期待しつつも、無事に完結されたこの作品におめでとうとありがとうを。

hReview by ゆーいち , 2007/05/24

マテリアルゴースト〈5〉

マテリアルゴースト 5 (5)
葵 せきな
富士見書房 2007-05