カレイドスコープのむこうがわ

2019年9月5日

stars 良質な短編集 でも井上さんとの恋バナがもっと見たい

目に見えない霊などを知覚し、他人にまでその認識を広げることのできる『同調者』として傍若無人な祓い師・門倉淑乃に便利に使われる日々を送ることになってしまった主人公・道弘の受難。
せっかくバレンタインに「義理じゃないチョコ」をクラスメイトの井上さんからもらったものの、進学先の高校は違うわ、デートの約束は淑乃によって強制的に反故にされるわ、さんざんな毎日を送りつつも、いろいろな事件を通して少しは成長していくのか?

シリアスだったり、ほのぼのだったり、時には出会いと別れのほろ苦さだったりと、様々なエピソードを通じて、霊との関わりだったり、同調者という存在の役割とか意識の持ち方だったり、巻き込まれて嫌々付き合っていた序盤から、自覚的に自らの能力を御そうとするまでに至る内面の変化の描写が丁寧。

霊退治とかありきたりな要素を、退治する役割の祓い師と、それをそうさせるための同調者という役割に分業させることで、互いの信頼関係の築きや、距離感の取り方とか、パートナーとなるべきふたりが、作中の様々なシーンでどういう気持ちでいるのかなど、想像するのもまた楽しいですね。

ヒロインの井上さんは、そんな道弘と淑乃に振り回される形で、なかなか彼との関係を進展させることができずにやきもきしてますが、彼女の微笑ましくも涙ぐましい努力は、見ていてなんだか暖かい気持ちになれたりもします。道弘自身も、井上さんのことを憎からず思っているのに、その気持ちが恋心と気付かない鈍感さの主人公スキルを遺憾なく発揮しているのが全ての元凶なんですが。その辺は、井上さんの今後のアタックで、ぜひ早急に気付かせてあげて欲しいところです。

hReview by ゆーいち , 2007/06/23

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三木 遊泳
メディアワークス 2007-03