樹海人魚

2019年9月5日

stars 中村九郎大進化!? 普通に読める作品に

人間に仇なす不死の存在・人魚と、それを手駒──歌い手──し、討伐する人間・指揮者の長きにわたる戦いの続く世界。主人公の森実ミツオは10年ぶりに現れた危険な人魚・死花花の討滅作戦中に自らの歌い手とはぐれ、別の歌い手・真名川霙と出会う。

中村九郎作品としてはこれまでに読んだ中で一番読みやすい作品でした。構成的な面にしても、文章的な面にしても、なんとか脳内に情景が構築できるぎりぎりのライン。それでも過去の作品を経験せずに読んだら、相変わらずぶっ飛んだ独特の文章と感じること請け合いですが。

作品の性格的にも、かなりライトノベルとして一般的な──中村九郎らしくない(笑)──設定であったり。そんな中にも独特の言い回しはあるわ、時にロマンティックな表現を用いたりと、薄味ながらもしっかり彼の作品であるという自己主張は感じられます。

弱気で大した実力もないという評価の主人公・ミツオと霙の関係は、まず信頼ありきであり、それを如実に体現するのが、指揮者と歌い手を繋ぐ赤い糸だったり、こういう設定はなんとも少女まんがチックで夢見がちな設定。冒頭でいきなり幼なじみで自らの歌い手であるバービーとの険悪ムードで始まったかと思ったら、ヒロインはいつの間にか霙になってるし、姉との確執もなんかよくわからないうちに解消してたり、いろいろと超展開的なところはあるのですが、それでも一つの作品として最初から最後まで混乱せずに読めたのはある意味驚愕であり(笑)

ストーリー的には続けられそうで、でもラストはかなり綺麗に締められていたりで、やっぱり単発作品としてまとまっているのかな。無理に続けると、とんでもない方向へ崩壊していきそうな危うさは感じます。

hReview by ゆーいち , 2007/06/30

樹海人魚

樹海人魚
中村 九郎
小学館 2007-05-24