様々なものの失いの果て 日常への帰還
殊子という大きな存在を失い、感傷に浸る暇もなく、晶と硝子は芹菜・良司と合流を果たす。そして、未だ目的の見えない樹・鏡、そして無限回廊を相手に、晶らは最後の戦いが近いことを悟る。本当の「世界そのもの」である相手に、虚軸たちは生き残りをかけて戦いに臨む。
ついに完結の第8巻。前巻のインパクトがあまりに大きくて、今回のエピソードはクライマックスというのに少々盛り上がりに欠けた印象となってしまいました。蜜・ネア・里緒、そして晶と硝子の、その全存在を賭けた決死の戦いが描かれているのに、敵の能力の特性故か、内容が盛り上がる方向へ向かいづらい感じがしてしまいますね。最後の戦いらしく、それぞれの裡に抱えた戦う理由や、今その場に集う意志、仲間たちへの思いなど、悲壮な戦いの中、傷付き失いながらも自分を貫いていく生き様それ自体は熱いものがあるのは確かなのですが。
晶の父・樹との決着も、完全決着というような明暗はっきりと分かれたものではなく、晶の中で、父越えを果たしたという精神的な決着に終わってしまったのが残念かな。ここへ至る過程が過程だっただけに、あらゆるものを失ってしまって、この結末では救いがなさ過ぎる、とも思いましたが……。
そして、日常への帰還。このシーンが、熾烈極まる戦いの果てに辿り着いた場所にして、もう一度全てをやり直すスタート地点。大切なものを失い、虚軸という壊れた世界を抱え、それすらも失って最後に得ることができた、ささやかな、けれども得難かった日常への帰還。晶が、硝子が、その日々をどのように慈しみ、愛おしんで生きていくのか。失ってしまったものの価値が、なにものにも代え難かったものであるのなら、それを代償に得たこれからの日々も、この上ない幸福に彩られていくべきものであると、信じられるのではないでしょうか。
hReview by ゆーいち , 2007/09/13
- レジンキャストミルク 8 (8) (電撃文庫 ふ 7-14)
- 藤原 祐
- メディアワークス 2007-09-10
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[藤原祐] レジンキャストミルク 8…
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