円環少女〈6〉 太陽がくだけるとき

2007年11月9日

stars 歴史は人を試し また人も人を試す 裏切り続ける過酷な現実 地獄の底に光明は差すのか

瀕死のメイゼルの命と引き替えに、王子護の策略通り、協会の走狗となり東京地下都市へ向かう。専任係官の任を離れ、公館の意志に背くことは、すなわち死に等しいことと知りながら。小さな教え子のため、ささやかな幸せを護るため、仁はかつての師、同僚たちとの生死をかけた戦いを覚悟し、歩を進める。

迫る核の爆発の時。東京の地下で、人知れず勃発した戦争の終結。時代に取り残され、どうしようもなく巨大な“悪”と戦うことを選んだ愚かな男の末路。絶望以外のなにものもないとしても、たった一人の少女の幸せを願い、偽善を重ね、全てを裏切った男がようやく掴むことができたささやかな日々。3巻に渡り続いた、東京地下戦争編の完結巻。

とにかく設定の重厚さがこれまでにも増して凄い。かつてあった史実と、フィクションである魔法使いたちの歴史の裏側からの関わりを、まさに日本の戦後から50年かけて積み上げてきたと思わせる重厚な時代背景に圧巻。国城田をはじめとした、一般の人間たちの姿が前面に押し出されて語られたのはこのエピソードに入ってからですかね。それは、隔絶されていた、一般人と魔法使いたちとの関係の変化を予感させます。作中で王子護が語ったように、魔法使いたちが科学の恩恵に与り、そして地上の悪鬼たちは魔法使いの手による道具を携える時代の到来の予感。作中のラストが日常の平和さをこれでもかと強調したようなものだったせいか、逆のその風景はあっさりと砕けてしまうような儚くもろいものであるかのように思わせられます。

仁が突きつけられる予想した最悪をさらに上回る非常な現実。師と仰いだ東郷や、同僚たち、幼なじみの京香らとのどうしようもない断絶と決別。そこから手にしたメイゼルとの日常も、いつ終わるともしれず、そしてこれからのさらなる試練を予感させるような王子護の台詞。様々に試され、裏切り裏切られ、偽善を積み重ねてきた仁が報われるのかどうかはまだまだ予断を許さない模様。

そして、メイゼルと対を成すかのようなもうひとりのヒロイン・きずなの見る未来の絵の意味も気になります。彼女の存在という価値が、物語が展開するにつれ徐々に重みを増してきているように思います。魔法使いとして覚醒してきた彼女。誰もが正しく使うことができないという再演体系の担い手として、彼女はどのような未来を読み解くのか。

もう一人。破滅への選択をしたエレオノールもこれからは孤独に真摯に神に祈りを捧げ続けるみたいだし、作中で幸せになれる人が出てくれないものかという淡い期待を完膚なきまでに叩き潰されるような熾烈なエピソードでした。

重厚な物語。容赦ない展開。ともすれば鬱展開と切って捨てられるようなハードなストーリーの作品ですが、それぞれが選び、命をかけて戦った果てに得た答えというのは、その形の如何によらず代え難いものであると思わされます。
せめて、仁とメイゼルが束の間のひだまりに微睡むくらいの時間は、ふたりの大切な思い出となるくらいの時間は、与えられて欲しいなと思います。

hReview by ゆーいち , 2007/11/09

円環少女 6

円環少女 6 (6) (角川スニーカー文庫 153-8)
長谷 敏司
角川書店 2007-11-01