そして明日の世界より―

stars 世界の終わりはいのちの終わりじゃない その先へその先へ

1周目

とりあえず1周。特に何も起きなかったけれどたぶんノーマルエンド。

健速氏の描く世界は、人間が大好きなんだなあと実感させられる。美化しすぎにも思えたりするけど、この世界で生きてきた、これから生きていくひとたちの絆の美しさがこれでもかと描かれてて切ないがそれがいい。
3ヶ月後に逃れえない滅亡を告げられた世界で、自分だけの世界を一度は失い、けれど再びその欠片を集め再生させていく物語。
その先のお話が語られなくても、彼らの世界に再び溢れた光は、最後まで輝きを失わないのだろう。

今ひとつ盛り上がりが感じられなかったけれど、やはり終盤は涙腺やばい。あぁ、なんだかんだ言っても、こういう人間の優しさに触れられる物語というのもやはり気持ちが良いもの。

2周目

夕陽ルートはふたりの持つ「世界」への認識の齟齬が混乱を生んで事態をややこしくさせていた。夕陽のために生きているような昴の生き方。かつて、夕陽・朝陽の母親と交わした約束、その言葉尻にだけ縛られ、過剰に夕陽を大切にし、そのために夕陽も昴に依存するしかできなくなってしまった歪な関係。自分のために生きてくれるのは嬉しい、けれど自分のために命を捨てられるのは、自らの命を差し出してもなお足りない、そんな矛盾。夕陽の叫んだ、自分に昴を殺させないでほしい、その言葉の重みと痛みが昴の芯を抉る。自分のために死ぬんじゃなくて、共に生きるために世界の終わりを選ぶ。それは、言葉にすれば簡単で美しいだけだけれど、きっと、どちらを選んでも夕陽は最後には笑顔で昴を肯定してくれたんだろう。

3周目

朝陽ルートは近すぎる三人のすれ違いと勘違いが痛々しい。かつての約束に縛られていたひとたちが、ようやくあるべき形に収まった物語。もっとも、朝陽という、キャラクターにいまいち感情移入できない──というより嫌いなんだな──ので、通してみるとちょっと不満。ずるい女で、自分を誤魔化し、その罪に気付かないふりをして、問題を先延ばしにするというのは、状況が許しても客観視してしまうと駄目な意味で痛々しかった。

4周目

青葉ルートはCVの青山ゆかりの演技が光っていた。2重3重に自分を隠していた青葉というキャラクターをちょっとしたイントネーションの変化で見事に表現していたように思う。どこか嘘めいて、作り物じみていた彼女との会話、彼女の言葉が、その予想通りであったことが分かった瞬間は、背筋がぞくりとしたり。昴との、親友であり対等であり、最も望んでいた形での関係を築くまでの過程はかなり良かった。過去のエピソードも絡め、一番古くからの関係であったがゆえに、今さら大きく変わるためには、激しい痛みが伴う。騎士の兜で臆病な顔を隠し通した少女が見せた、本当の笑顔は予想通りに自然で柔らかかった。

5周目

御波ルートは世界の美しさ、普通であることの難しさ、当たり前にそこにあるものの喪失が、何よりも耐えがたいものであることに気付かされる物語。死と共に歩み、他人と隔絶して生きてきた御波が、世界が滅ぶという皆が平等な状況に置かれたことから棚ぼた的に手に入れることになったひとかけらの幸福。それは、友だちであったり、普通の日常であったり、昴という掛け替えのない恋人であったり。御波は死を恐れない。ただ、それに伴う幸福の喪失に気づき、怯えた。だから彼女が望むのは、最後の最後まで歩んでゆくことのできる誰かであり、それに応えることができたのは昴だけ。その出会いと関係の成就は奇跡なんて言葉で表現されたりするけれど。残りの人生を賭して、共に歩むことを望む御波と、彼女の願いを簡単に叶えると言い切ることのできた昴が見ていたのは、目の前にある世界の終わりなどではなく、その先の先にある明日。

エピローグ

そしてエピローグ。全ての終わり、また始まっていく。彼らが最後の最後まで、当たり前にあり続けた証。そして彼らの意志は世界が1度滅んだくらいでは朽ちることなどないという確かな記憶と記録。きっと彼らに続く、次の世代のひとたちも、友を愛し慈しみ、笑顔を惜しみなく注ぎ合って歩いていく。「ここにある」という当たり前のことを紡いでいくために。

──序盤~中盤の展開が冗長で、「世界が滅ぶ」という終末が予見されているという設定上、どうしても重苦しい展開にならざるをえず、そういった点では気楽とか明るいとかそんな雰囲気とはかなり縁遠いシナリオ。けれど、健速氏が登場人物に託した想いというのは、気障で理想論で美談かもしれないけれど、やはり心地好く感じられた。自分の命と、周囲の人々と自分が創り上げている自分だけの「世界」、天秤に掛けてどちらを選ぶかということに、明確な答えなど出せようもないのに、気持ちいいくらいにすっぱりと後者を選択し、そしてきっと誰もが欠けることなく最後の時間まで変わらず過ごしていったと思わせるあたりが、この作品の美しさなんだろうと思う。
世界は変わらずありのままそこにある。そんな簡単なことに気付くのは存外に難しくて、けれど気付いてしまえば、色あせたように思えた世界も彩りを取り戻す。これは、ただただ今ある世界を美しいと思い、いとおしいと思えたひとたちの、優しい優しい物語。

hReview by ゆーいち , 2007/12/15