記憶を欠落させるクロノグラフが引き起こした悲劇
慧と武臣の中学時代からの同級生・秋永がこのところ登校していない。夕凪はその話を聞きつけて彼のことを調査し始める。お見舞いという名目で、彼の自宅を訪れた慧らは、秋永との会話の微妙な違和感から、彼が半年間の記憶を失っていることに──クロノグラフによって引き起こされたことに──気付いて。
わかりやすい形の叙述トリックで、作中で犯人と示唆されている人物が誰なのかを考えながら読み進めていったのですが、犯人が明らかになったところでは予想外の人物。確かにもっと丁寧に読めば慧と同様の推理はできたかも知れないけれど、意外な展開でしたね。
この時点では、犯人の動機とかは、結構器が小さいなあとか思い、むしろ自分が予想した犯人と動機の方が救われないなあとさえ思っていたのですが、いやはや、自分の読みこそが甘かった。最後の最後で明かされた、もう一つの事件の構図、人間関係の形は、それまでの物語の印象を正反対にしてしまうくらいの醜悪さで打ちのめしてくれます。『断章のグリム〈6〉』でも感じたのですが、正常に狂ってしまっている人間の思考というのものは、ぱっと見それに気づけないものですね。
過去を無くし、その空白にするりと入り込んだ彼女の行動こそが、クロノグラフを用いて罪を犯した犯人より、さらに深遠な狂気をたたえたものであることに気づかされ、なんとも後味の悪い結末となってしまいました。そして、当人たちがそれに気付いていない、それ自体は失われた時間を補って余りある幸福につながっているということが、さらなる皮肉となっていますね。
hReview by ゆーいち , 2007/12/30
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[久住四季] ミステリクロノⅡ
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著者:久住四季
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失われたクロノグラフを探すため、慧たちの学園の生……