FORTUNE ARTERIAL

2008年2月13日

FORTUNE ARTERIAL 初回限定版 (予約特典「FORTUNE ARTERIALマテリアルコレクション」付)

比較的ゆっくり目のペースでコンプリート。

オーガストの作る作品は、だんだんとクォリティが上がって行ってるなあ。商業作品としては理想的な品質でリリースされてるんじゃないですかね。

特に最近のえろげー業界のぐだぐださ加減からすると、作品の発表~プロモーション~関連商品の展開~平行した他メディア化~作品自体の品質 どれもが高水準でまとまっているような印象です。

作品自体も、ユーザが期待している最大公約数を取ったかのようなスキのなさ。もちろん、こういう均質化された作品ではなく、どこか強烈に引きつけられる魅力を持った作品というのも確かに存在するのですが、えろげー入門作としては多くのひとに薦めやすい作品ではないかなあと。

ただ、まぁ、鮮烈に印象づけられた部分があるかといわれると、? が付いたりしますけどね。

ネタバレ込みでだらだら思いついたことを書いていくので、以降は続きを読むのあとに。

クリア順は 瑛里華→桐葉→白→かなで→陽菜。美味しそうなところから順に進めていきましたが、おおむねこの順で正解だったのかなあと。

物語の根幹が瑛里華ルートと密接になっている都合上、部外者的な位置づけの悠木姉妹は本当に部外者だったような。ふたりの話自体は、まっとうに学園もので恋愛ものしてたので、それはそれで良かったんですけどね。孝平との嬉し恥ずかしならぶらぶ展開は、うん、いいものです。かなでのいい姉振りも大変よろしいです。こういう姉妹が登場すると、高確率でお気に入りになります。良い良い良い。ただまぁ、何というか、かなり理想化されてる姉妹像なので、もう一歩踏み込んだ展開がほしかったかなあと欲を出してみたくもなります。

瑛里華ルート単体だと、かなり投げっぱなしというか、何も解決してないですね。そのままTrueルートを探せといわんばかりの展開なので、単体での評価をしてもしようがないのかな。彼女が吸血鬼として、人間からの吸血を忌避する理由もやや弱い感じ? 自分の生命と、周囲のひとたちの心配をかけてまで、守り通すべき理由が明確にはされてなかった、あるいはTrueルートのように、彼女の決意とは別の部分で強制的にルールを破らされた割りにはそれを表だって気に病んでない様子など、単に親への反駁心からの行動だったのかもしれませんが。単独ルート終了後、孝平と歩んでいく未来というのは決して明るくないように思え、ともすれば伽耶と同じ轍を踏みかねないだけに、ハッピーエンドでは内容に思えますね。
──時が経って、幸福を当たり前のものとして享受した果てに、摩耗していった感情が求める方向性がどうなるかなんていうのは、想像に任せるのが良いのですが。

桐葉ルートは瑛里華ルートの直後にやったせいもあって、彼女の事情もかなり早い段階で看過でき、その後の展開もだいたい読めます。伽耶の存在が強く全面に押し出されてきた割りに、彼女の桐葉への屈折した愛情の理由というのがTrueまで明かされないというのは消化不良感が残りましたが。桐葉の、孝平と歩む時間を許容した伽耶の気まぐれも、このルートの未来では死別が確定しているようなもので、その後再び桐葉を取り戻せばいいような考えがあったのでしょうか。これまた幸薄い展開になりそうですが、孝平の眷属化の選択肢が残されているわけで、それが示されたとき、そこでどういう選択がなされるかというのも想像してみると楽しいかも。もっともそうなったら、伽耶が本気で妨害してきそうですが。
私個人の想像としては、最終的には死別して、桐葉は再び伽耶の元へ戻り、不毛な鬼ごっこを繰り返してるんですけどね。

白ルートは、東儀の家の表向きの姿が語られ、家の旧いしきたり・軛からの解放が描かれています。でも、Trueルート見ると、征一郎の行動がかなり正反対に見えてしまいますね。あるいは、自分がすでにひとならざるものであるという理由から、白を東儀の当主として立てることが自分にとっての最後の役目とか考えていたのかもしれません。東儀と千堂の家の奇妙な関係というのも、表の理由と裏の理由があり、ここだけではなんとも微妙な感じが残り、白がしきたりに殉ずるかどうかということにも、正反対の答えを導き出しているのが面白いですね。孝平の行動のベクトルが、そのまま東儀の家に縛られていた兄妹にダイレクトに影響を与えているような印象でした。

で、Trueルート。この表現が適切かどうかというのはかなり微妙なのですが。登場人物たちの後日談までエンディングで語られるし、物語の核心も全てつまびらかにさせられるので、そういって差し支えないのでしょう。
千堂家の長たる伽耶の存在が瑛里華や伊織に与えた影響と、呪いにも似た歪んだ愛情が生んだ悲劇の結末。中盤までは、解決のしようがないと思われた難題も、最後の最後で孝平の脅威の行動力で、絡まり合っていた糸がほぐれ、リスタート。大団円といって差し支えのないラストですけれど、伽耶の頑なさの解決の理由として、ほぼ説得だけでっていうのはどうなんだろうなあ。他ルートや本ルートの序盤で見せていたような、凶悪さ、邪悪さといっても差し支えのないくらいの憎しみの源泉を、250余年の時間の堆積をあっさりと振り切るカタルシスがあったかというと、足りないんじゃないのかなあ。
方向性として間違ってるわけじゃないですけれど、描写が足りてない感じ。ただ、この辺を深く描いていこうとすると、それこそ分量的に過剰になりかねないし、落としどころとしては悪くないとも思えますが。失われた時間、語られなかった時間は、また別の形での補完が期待できそうですしね。

総じて、大小の困難はあれど、結ばれたふたりが幸せにならないなんて嘘だというおとぎ話めいた物語。そういう話はあふれていても、広げた風呂敷を綺麗にたたむのは難しくて、トータルで見て、本作くらいに華麗な着地を決めてくれる作品というのは、それほど多くないでしょうね。ただ、物語の根幹に根付いた、吸血鬼という設定が、それこそTrueルートに至るまであまり活用されてなかったのは残念。重い設定を引きずりながらも、ここまでライトな展開にして見せてくれたのは、オーガストの力量ですが、逆に深い深い物語を期待してしまうとやや肩すかしかも。
まぁ、かつては「ワールド」とまでいわれた超展開がなりを潜め、全体で見て綺麗に完結している作品に仕上がっているので、楽しめたのは間違いなのですが。

──裏設定で、マレヒトの出自が「ワールド」由来だったりしたら、ある意味見直しますが。

ともあれ、予想を超えるというのはなかったですが、期待は満たしてくれた作品でした。