旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。

2008年8月18日

stars 僕は君が一緒に居るなら、どこに行くのでも構わないよ

『喪失症』と呼ばれる現象はあらゆるものから名を、そして存在を奪い去っていく。この現象が確認されてから、世界はゆっくりと滅びへの一途を辿っている。少年と少女はそんな世界を、見たこともない、あるかどうかも分からない、最果てを目指して走り続けている。

きっかけは些細なことで、けれど今では大切になってしまった約束。それをひたすらに守り続けるために、少年と少女は旅を続けています。すでに三ヶ月の道中。艱難辛苦一通り味わい尽くしても、やはり、その過程で出会った人々との様々な形の別れというのは、この喪われていく世界でも、大切なものとしてふたりの脳裏に残っているようです。

名前を出さない、その方法に対する回答を、この世界観を創り上げることで見せてくれた仕掛けは面白いですね。ひとびとの存在どころか、静物であろうとその存在を喪っていくというどうしようもない状況の中で、最後に明かされる自らの足跡を残すための裏技。上手いなあ。

少年と少女の距離感も恋人未満なのに、ときには恋人以上に通じ合っているようなシーンもあったりして、良い感じです。ツンケンしつつも、自分と少年の関係を、誰にも邪魔させたくないなんて煩悶する少女の姿は可愛い可愛い。この先、ふたりの時間が途切れてしまう前に、なにがしかの形で結論を出したりするのかな。

綺麗なお話でした。静かに滅び行く世界で、自らの名も失しながらも、生きていくひとたちの物語。世界の果てに辿り着くなんていう夢想は、叶うなんて信じてはいないのだろうけれど、ただ、ふたりでそこを目指す、その目的と手段が誰かに伝わるのなら、それは決して無意味なことではないのでしょうね。

hReview by ゆーいち , 2008/03/27

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫 よ 4-1)
萬屋 直人
メディアワークス 2008-03-10