始音を超え、奏でられるは冬の旋律
冬の訪れの足早い、北のフェルン大青湖、フェリ・フォシルベル城。カインツに連れられ、その古城を訪れたネイトは、美しい旋律にも似た声音を響かせる姫君ファウマ。ネイトに問いかけ、彼をシャオと正反対と表するファウマの真意は……。ひとつの物語が終わりを告げ、新しい物語の音が奏でられ始める。
新エピソードへの序奏ともいえる短編集。いや、女装もあるけれど!
雑誌掲載の短編と書き下ろしの短編計八編、本編とは違った息抜き的な感じでコメディ色の強いエピソードの数々が収録された短編集でした。
ネイトとクルーエルは相変わらず不器用なプラトニックラヴー! だし、ミオとかエイダとかサージェスは調子に乗って周囲を引っかき回すし、アーマを襲った史上最悪の出来事はご愁傷さまだし、護身部部長の破壊力と戦闘力は常軌を逸してるし、何が何だか分からない、トレミア学園の愉快な仲間たちが大騒ぎしてました。あと、イ短調の変なひとたちはもっと自重した方が良いと思います。超越者の自覚ナッシング。
毛色は違うけれど、カインツとイブマリーの卒業式のエピソードは特に良かったですねー。別に大きな出来事があったわけでもなく、けれどお互いの夢を楽しそうに、別れを少しだけ寂しそうに語って、大切に思い合ってる雰囲気が良い良い良い。こういう想いの積み重ねがあったからこそ、十年の時間を超えての再会というのは、奇跡みたいなものなんだなあといった感じですね。
そして、新エピソードへ続く最後の短編「そしてシャオの福音来たり」では、また新キャラ登場。“歴史上最も美しい声”を持つファウマ、シャオの協力者でもあるっぽい彼女もまた、名詠式との関係が深そう。そして、何度か登場するワード「全ての約束された子供たち」も、意味深に響きます。
主人公らしい活躍をなかなかできないネイトですが、これからは彼とクルーエルを中心に物語はさらに激しく動いていきそう。今はまだ、先達たるカインツやイブマリーの影に隠れがちな感じですが、シャオとの関係も含めて、これからはいっそう成長していかないと、激しい運命に太刀打ちできそうにない? がんばれ、がんばれ。
hReview by ゆーいち , 2008/04/25
- 黄昏色の詠使いVI そしてシャオの福音来たり (富士見ファンタジア文庫―黄昏色の詠使い (174-6))
- 細音 啓
- 富士見書房 2008-04-19
コメント