ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。

2008年5月25日

stars ああ、ようやく逢えた。わたくしの探していたあなたに、ようやく逢えた

自分をわんちゃん呼ばわりする穂積之宮いちこに下僕扱いされて幾年月。日輪の毎日は、そんな彼女の虐げられる毎日だった。夏休みを明日に控えた七月二六日の夜、輪はいちこから突然「お見合いをしてほしい」との申し出を受け……。それは、この町・十六夜草町に伝わる伝統行事。いつの間にか“見えなくなったもの”をふたりで探す、そんな日々が始まる。

良かった。話の流れが大変好み。巫女さんないちこと、彼女にペット扱いされる輪の、何年かぶりに催されることになったお祭りを通した思い出探し。いつの間にか忘れてしまった約束だったり、出会いだったりの思い出が、『お見合い』の準備期間を通して少しずつ蘇っていく様、輪の頑なだった家族へのわだかまりが氷解していく様、そして、いちこの輪をひたすらに想い続けたその一途な様が、綺麗に綺麗に描かれていました。

神社への参拝の帰りに出会った不思議な少女、アネモイ。彼女との会話の成り立たない様は、けれど、逆に輪やいちこが大切なことを忘れたままだったことに起因していて。アネモイの立場からすると告げられること告げられないこと、いろいろありつつも、彼女はただ自分の思いをまっすぐに言葉にしていただけで。その言葉が届くまでの意味不明さは、逆にすべてが繋がった後にこそ意味を持つものだという、なんとも上手い会話だったなあと。

序盤の淡々とした展開は、いちこと輪の掛け合いでなんとか保っている感じでしたが、中盤以降、アネモイのおかげで物語が転がり始め、そして、最後にいちこと輪がすべてを思い出すシーンは本当に綺麗。のどかな田舎町の情景、夏の夕暮れ時の空気の優しさ、通じ合った想いのいとおしさ、そしてほんの短い出会いの最後に待っていた別れのさみしさと、どこまでも私のツボをピンポイントで突いてきて琴線揺さぶられまくりです。

朱門氏の作品はゲームの方はプレーしてないんだけれど、これはやっておいた方が良さそうな感じ。こういう物語は大好きですねえ。そのうち手に取ってみたいものです。

hReview by ゆーいち , 2008/05/25