立花ひなたはいつもお前を見てた。ちゃんとお前を見ていた。なのに、お前は何をやってたんだ。
「近々、何か大きな事件が起きるね」生徒会長も務める先輩の京にそう言われた帰り、宗太は自分の住むマンションの前でシーツに身をくるんだ少女と出会った。その格好と、何より、彼女の目が不自由なことに気付き、学校への道を尋ねる彼女を、自らの家に招く宗太。ひなたと名乗った少女と、他人には秘密にしたままの能力を持つ宗太の共同生活が、その時から始まった。
ほんわかしたノリかと思ったらそんなことはない。このギャップは狙ってるのな狙っていないのか。途中から、それまでの印象を覆すような怒濤の展開でどうしようかと。この表紙から、まさかそんな方向の物語になるとは想像できようか。いや、できまい。ということで、意表を突かれました。
ムーンチャイルドと呼ばれる特殊な能力を宿した少年たち。かつて、月の欠片が地に落ちた事件を境に、そんな超常の力を持った人々は、けれどその存在を肯定されず、社会的に迫害を受ける世界。そして、その力を悪用する人間を、毒をもって毒を制すがごとく、能力者によって捕らえる公安特課。主人公の宗太らは、そこの所属し、人知れずムーンチャイルドによる事件を解決していた最中、その犯人たちを非情の手段で断じる「執行人」が現れて……、というお話。
結構容赦なく人死にが出たり、宗太たちと親しく会話した子が大変なことになったり、そして事件の真相がこれまたお話の都合なのかどうなのかはともかく痛いですね。強大な力を持ちながら、目の見えないというハンデを持つひなたと、自らの能力で文字通りひなたの「目」となることのできる宗太。上の都合で半ば無理矢理に始めさせられた共同生活の中で、少しずつ距離を縮めていきつつも、決定的な部分で踏み込めない宗太のへたれさが光ります。天罰。
一生懸命に手に入れたささやかな生活を守ろうとするひなたと、まさに対照的で、この事件を通してようやく真正面から彼女を見ることのできた宗太ですが、宗太が想いを寄せる千歳嬢とひなたとの、なんとも微妙な三角関係に発展していきそうですね。次巻では思い切りラブってコメってほしいですよ。
hReview by ゆーいち , 2008/05/29
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