正しい答えなんか出ないんだよ! 出せるもんならやってみろよ!
神人遺物の原料となる賢者の石を巡る戦いが始まろうとしている。神音大系の聖騎士将軍・〈至高の人〉アンゼロッタは機械化聖騎士師団を率いて来日する。総兵力5千人の聖騎士。一方の公館の戦力はごくわずか。激突すれば敗北必至の状況で、公館から離脱した仁も望むと望まざるとに関わらず、束の間の平穏は終わりを迎える。バベル再臨より事件の渦中にあり、そしてまた聖騎士たちの目標となったきずなの存在を守るため、仁は絶望的な状況下においてなお、彼女を守るために戦いを選ぶ。
アンゼロッタの、神音大系の圧倒的な戦力投入によって、協会とのパイプが断絶してしまった公館には、それに抗する手段はあまりに少なすぎて。
そして、それによって仁とメイゼル、きずなの3人で築いてきた疑似家族生活の終焉。仁の抱えていた後ろめたさの核心が、ついにきずなに突きつけられるお話。
仁が相変わらず何をやっても報われない展開。誰かを幸せにしたいと思っているのに、この世界において、仁ができることは、結局は誰かを傷つけることしかないというのがとにかく辛いですね。
事件の中心にありながら、きずなは普通であり続けようとして、けれどそんなことがいつまでもできるわけがないということが、メイゼルによって断じられます。世界において唯一ともいえる価値を持つ再演大系の魔導師として、きずなは生きていくことを、自らが選ぶ前に、すでに世界によって強制され、それから目を逸らそうと仁へ逃避するきずなの狡さだったり女としてのしたたかさだったりが、露骨に描かれていたような感じ。それはメイゼルが持ち得ないもので、それを使って仁との絆を結ぼうとすることが、どうにも許せなかったのかもしれませんね。
そして、仁ときずなの諍い、メイゼルときずなの諍いを経て、ようやく仁とメイゼルの関係も、修復されたのか、あるいは新たな一歩を踏み出したのか。最後の戦場での仁とメイゼルの共闘は、その戦況の絶望さとは切り離された昂揚をふたりに与えていたみたいですね。
自らが殉じると決めた神意のため、聖騎士との道を違え、孤高の戦いを選択肢続けるエレオノールは、もう、仁とは別の意味で主人公じみてきましたね。とにかく自分を裏切り続ける現実に絶望し、足掻いている仁とは違い、エレオノールは地に落とされてもひたすらに美しくあり続けそう。そんな対極にあるふたりの道が今後もどのように絡まっていくのかも気になりますね。
にしても、アンゼロッタの進軍がここで終わるなんてとても思えないわけで、さらには驚愕の引きで続いてしまったエピローグ。この先に一体どんな展開が待っているのか。仁たちが望む、ささやかな幸せは、再び手に入るのか。そんな道は未だ見えていません。
hReview by ゆーいち , 2008/06/07
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