されど罪人は竜と踊る〈2〉 ~Ash to Wish~

2010年4月12日

stars 私と君と、そして彼。誰が最後に笑うのか。さあ、楽しもう。

〈異貌のものども〉の中でも強大な力を誇る〈禍つ式〉による連続殺人事件が起こり始めたエリダナの街。警察からその対処を求められたガユスとギギナは、商売敵のラルゴンキン咒式士事務所との共闘を余儀なくされる。そして、同時に舞い込んだ大企業ラズエル社からの依頼。反政府組織の人質となっている、天才・レメディウス博士の身代金交換の立ち会いを求められる。全く無関係に見えたふたつの事件、しかし、それはただひとつの狂気と絶望によって巻き起こされた最悪の事件へと収束していく。

ここら辺からシリーズの暗黒化が顕著になってきます。「灰よ竜に告げよ」という旧シリーズのサブタイトル好きだったんだけどなあ。まぁ、内容は変わってません。別ルートへ進むかと思ったけれど、レメディウスの悲劇、モルディーンの策略、ガユスの不幸っぷり、そしてジヴとの間に生まれた微妙な亀裂、どれもこれもそのままでしたね。

そんなわけで、純粋にしてあまりに天才すぎたレメディウスが、世界に絶望したことから引き起こされた事件。自らの身内と、そして生き地獄を味わわせたドーチェッタへの際限のない憎悪は、自分を竜の化身と例えるほどに人間であることを捨て去っていて。たった一つだけ幸せにしたいと思っていたナリシアとの別れの悲劇性との、彼という自己の終わりの描写は、壮絶ですね。各章の冒頭で語られる、レメディウスの日々が壊れていく流れ、再読とはいえ、この絶望感はなんともはや……。

巻き込まれ体質なガユスも、モルディーンの余計な置き土産のせいで、大禍つ式に目は付けられるわ、ジヴとの関係は微妙になるわ、昔の女は出てくるわで、この先の不幸への加速が伺えますね。果たして3巻はどんな不幸が待っているのか。短編集がそのまま出るのか、あるいは、アナピヤのエピソードが1冊にまとまって刊行されるのか。後者だったとしたら、ガガガ文庫最厚、そして、最鬱の1冊となることは間違いないでしょうね。

hReview by ゆーいち , 2008/06/22