いきましょう、お二人とも。この決して墜ちない羽を手に入れたあたくしたちになら、きっと出来ますわ。
ミリオポリス。かつてはウィーンと呼ばれたオーストリアの首都。近未来、超少子高齢化社会において、11歳以上の全市民に労働の権利が与えられた世界。妖精と呼ばれ、空を舞う少女が3人。これは機械化された身体を持つ特甲児童、焱の妖精・鳳、乙、雛、MSS――ミリオポリス公安高機動隊に所属する少女たちの物語。
独特の文体がハードルとか言われる本作。普通に読めたので一安心。通常の文章とはまた違った、圧縮されたような印象を受ける文体は、確かに作品世界のあらゆる速さを象徴しているように思いますね。
身体を機械化された少年少女が戦う世界。そんな子どもたちた世界を守り、そして壊そうとする世界。本作に登場する鳳、乙、雛の三人も、それぞれがこんな境遇に陥らざるを得なかった過去を抱え、それと向き合い、あるいは引きずり、生きています。
なんとも容赦のない物語で、彼女たちの言葉が、明るく響けば響くほどに、その裏に秘められている残酷な現実というものを嫌でも意識してしまうような。そして、MSSの敵となるテロリストたちも、その正義の実現のために、あらゆる犠牲を是とする、終わりの見えない戦いを仕掛けてきて。
子どもたちが犠牲になる、そんな世界の非情さがどうしようもなく描かれていて、そこに生きる少女たちが、幸せになれるかどうかわからないけれど、どんな未来が描かれるのか、シリーズを追っていきたいと思います。
hReview by ゆーいち , 2008/06/22
- スプライトシュピーゲル 1 (1) (富士見ファンタジア文庫 136-8)
- 冲方 丁
- 富士見書房 2007-01
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