吸血鬼のひめごと〈3〉 The Secret of the Wish

stars ――ねえレレナ。お話ししようよ。昔のお話。楽しかったときのお話。しよ。

かつての生活を取り戻すという願いに突き動かされた舞が、レレナの日常を浸食していく。懐かしい顔と声と仕草に、そして彼女の隣に立つツキシマの姿に、レレナの心は削られていく。何も失いたくはない、そんな甘えなど許されるはずもなく、レレナと朧はツキシマによって持ちかけられたゲームによって、すべてを決することを余儀なくされる。レレナの命運を朧とツキシマの命によって決定づける、そんな残酷なゲームに、レレナはひとつの決意をする。

ああ、これで完結かあ。

前作から残されてきた、レレナの心に一つの決着を付けたエピソードが幕を閉じました。
前巻で登場した舞によって、かつての日常と今ある日常、その二者択一を迫られたレレナの下した決断は、「選択をした」ということ自体にも価値があり、そして彼女が過去との決別を果たし、そして新しく得た日常を守り抜くという決意を貫き通したという点において、彼女の成長を感じさせるものでした。

舞と月島、どこまでも大切に思っていたはずのふたりとの決別。それは、レレナにとってもいつか果たさなければならない痛みであり、これから生きていくために必要な通過儀礼。忘れることで何かが許されるわけではないけれど、その記憶に囚われて、前に進むことができないからといって許されるわけでもなく。過去に囚われ、縛られ、今ある生を罪悪感と恐怖感にまみれて生きてきたレレナが、ようやく今ある日常へと踏み出すことができたというラストは、前作の虚無感たっぷりのラストと好対照で、ここでもって、ようやく彼女の心に救いがもたらされたんだろうなあという思いです。

そんな彼女を日常に縛り付けてくれた青磁とたまについては語り足りない部分もあるので、その辺は前作みたいに番外編で補完してほしいかな。

hReview by ゆーいち , 2008/07/17

吸血鬼のひめごと 3

吸血鬼のひめごと 3 (3) (電撃文庫 す 5-17)
鈴木 鈴
アスキー・メディアワークス 2008-07-10