時間が進むから生きていることができます。生きているから死ぬんです。私は死ぬまで、生きていたいんです。
「幻想症候群」という原因不明の病がある。願望や恐れが現実となる現象。原因も理由も分からず、ただ、発症した人間は高い確率で死を定められる。幻想に浸食される現実、定められた死へと向かって生きていく人びと。そんな世界を描いた短編連作集。
電撃で出てた『二四〇九階の彼女』と同様に短編で構成された作品。少しずつ世界が広がっていって、最後の章ではかなり壮大なオチが付いていますが、その中で語られる物語というのは、私とあなた的なごくごく身近なもので、だからこそ、この病に囚われてしまったひとの心の機微に琴線を揺さぶられたりするわけですが。
そんな感じで、雰囲気のある作品ですね。ちょうど夏を舞台にしているお話が多かったので季節的にも良い感じ。第1章『遥か遠くの夏』の儚さとか、第3章『夏休みの終わり』の切なさから終章『1000年の森』への繋がりとか、あと、第2章『無限回帰エンドロール』は異色だけどホラーだし。
短編の積み重ねで、この世界の美しさを見せてくれましたね。なんか終盤だともう病気の設定とかうっちゃられてる気がしましたが。静かな雰囲気の作品でした。
hReview by ゆーいち , 2008/07/26
- 幻想症候群 (一迅社文庫 に 2-1)
- 西村 悠
- 一迅社 2008-07-19
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