C3-シーキューブ〈4〉

stars ごめんな。これは、私のわがままだ。ごめんな、私、わがままで、ごめんなぁ……。

体育祭の準備に励むフィアたちが出会ったのは、不思議な声を漏らす楯岡藍子と名乗る少女。ひょんなことから夜知家へ招くことになった彼女の正体はやっぱり、で。穏やかに、けれど賑やかさを増していく春亮の日常、けれど、体育祭を目前に控えた彼らの前に姿を現したのは、忘れることもできない……。

今回も良かったですね。実質的には前巻から続いた家族会絡みの騒動に一定の決着を付けつつ、その先にまた謎を散りばめ次巻へ続かせるという、なんとも今後が楽しみになるお話でした。

体育祭という初めてのお祭りにうきうきしながら練習に精を出すフィアが可愛らしいこと可愛らしいこと。新キャラの藍子の登場で、微妙に先輩風を吹かせたがるフィアの姿に和みつつ、けれど、そんな平穏に話が終わるわけでもないというのは、予想通りですが。

フィアが、どんどんと人間らしい感情を得ていっている、そのことが、今回はフィアにとって大きな枷となったように思います。自分にとって大切なものを守るために、呪われた自分の力を振るわざるを得ない。その力でもってしか、現状を打破できない。その矛盾を、けれど、フィアは受け入れ、彼女なりの覚悟でもって、今回の戦いを受け入れ、戦い抜き、そして勝利を得ることができました。

もう一つのフィアの姿ともいえる藍子の苦悩と選択を、今のフィアは否を唱えることができたけれど、かつての彼女だったどういう選択をしたのか。そのことを考えると、今回のラストはかなり切ないなあ。殺めて殺めて殺めることしかできなかった彼女たちが、春亮のもとで得ることができるかもしれなかった平穏、それを守るために、自らの呪いを肯定することなく、けれど、今ある「自分」は受け入れ、戦う。そんな気持ちを抱くに至った、春亮との思い出が、どれだけ大切なものかというのは、誰がなんと言おうと否定なんてできないもので。だから皆が、これまで以上に必至に、戦ったんだろうなあ。

だからこそ、呪われた道具である彼女らを愛するという、家族会の理念とは、最後まで相容れることなどあり得ないし、この結末はそんな人間に憧れたフィアたちが、それに少しずつ近づいていっている証左なのかもしれませんね。

今回のラストは、報われた部分が少なくて、少し黒い水瀬葉月な雰囲気でしたが、でも、やっぱり、根底にはわずかばかりの希望が残されている気がしますね。ひたすら前向きに生きている、フィアの姿がただただ眩しいです。

hReview by ゆーいち , 2008/08/08

C3-シーキューブ 4

C3-シーキューブ 4 (4) (電撃文庫 み 7-10)
水瀬 葉月
アスキー・メディアワークス 2008-08