君は、君の生き方をいけばいい。たとえ。たとえ、それが君たちの決別の始まりだとしても。
捜査六課への出向の終わりを間近に控えたある日、太一朗は優樹へ自分の大切な気持ちを伝えるために、彼女を公園へと連れ出す。しかし、ふたりにとって因縁深い代々木公園で、彼らは出会ってしまった。死んだはずの高橋幸児に。記憶を完全になくし、自分が誰かも分からない高橋を、優樹は六課に連れて行く。そんな優樹の行動は、太一朗を苛立たせ、そして、ふたりの心は決定的にすれ違っていく。
[tegaki]おおおお……。[/tegaki]
物語の決定的な転換となりそうなエピソード。第1巻で退場したはずの高橋の再登場をきっかけに、優樹と太一朗の抱えていた互いへの想いの決定的な齟齬が、運命の歯車の回転を狂わせていくかのような物語でした。
自分の抱いていた愛情を、優樹に受け止めてほしいと願う太一朗の告白は、けれど彼女には理解しがたい感情だったようで、そして、そこでまた太一朗の性格の悪い部分が彼女を糾弾してしまうのが不幸の始まり。他人に触れられることがどうしようもなく怖い優樹と、愛しいからこそ触れたいと思う太一朗。この時点で、互いが、互いを認め、幸せでいられる選択肢というのは「現状維持」だけだったのかもしれないけれど、そこを踏み越えようとしたのが太一朗らしいといえばらしいのですが。
そんなふたりの物語の外側で、彼らの知らない勢力が登場。“主”に敵対するクロスブリード。優樹の立ち位置を巡って、“主”とクロスブリードの思惑が衝突しそうな構図。終盤の展開では、“主”自らお出ましになり、優樹にひどいことしてくれやがりますが、これまた今後のさらなる救いのない展開のための準備にしか思えないのが恐ろしいところです。
そして、太一朗の躊躇わない強さが、同時にそれが向けられることはどうしようもなく怖いことであることが分かります。優樹の危機に、高橋に対して太一朗が取った行動は、優樹にとっての決定打だったのかもしれません。怪も人間も殺すことのできない優樹は、怪も人間も、そして優樹と同種のダブルブリッドをも殺すことのできる太一朗に対して、明確に拒絶の意志を示しました。そして、それは彼に対する好意が憎悪に転じたからではなく、ただただ、彼の行為が悲しかった、悲しすぎた、それゆえの結果だというのが救われないですね。
これまで、手を伸ばせば触れることのできた距離。それが決定的に別たれ、長いようで短かった六課出向の期間終了を迎え、離れていきます。
表紙で背を向けあった二人の姿が、これまで同じ方向を向いていたのとは正反対なのが、この結末を暗示していたのだと分かると、なんともやりきれない思いに囚われます。
hReview by ゆーいち , 2008/11/23
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