なにいろアスタリスク!

2008年12月14日

stars ……今はまだ、原石のようなものかもしれないけど。これから磨いていったらきっと、何色かわからないけど、綺麗な宝石になるよ。チナちゃんだけにしか作れない色の、宝石。

自分に自信がなく人生の意義をやみくもに探し続ける19歳の少女・チナ。新しいことに挑戦しては辞め、挑戦しては辞めを繰り返し、長続きした試しのないチナが、現状を打破するために選んだものは「演劇」。親友の静乃の脅しにも似た忠告の後、訪れた劇団「アスタリスク」で待ち構えていたのは、厳しい練習に打ち込む実力ある先輩たちの中、たったひとりのドシロートという現実。そのまま背を向け逃げ出したくなる状況で、踏みとどまったチナをこれから待ち受けている試練とは……?

[tegaki]戦わなきゃ、現実と![/tegaki]

いやぁ、なんだか読んでいる方も胃が痛くなるような展開が連続して、引き込まれてしまいましたね。主人公のチナの考え方はなんだか共感できてしまうなあ。確かにきつい状況になると逃げたくなるし、けれど、自分だって何かをできるようになってみたいなんて願望を抱くことだってあります。……あれ、それじゃ、まるで私が逃げ続けてるだけじゃないですカー? ソンナコトハナイですよ?

ともあれ、夢を夢見て目標を探して、頑張ることを始める女の子のお話です。全くの未経験者が、いきなり参加した劇団はスパルタを売りにするところで、たったひとりの自主練や、劇団員らの憧れの対象となっている厳しい先輩からダメ出し、さらにはチナを疎んじる一部の団員からの嫌がらせ、と一通りの試練が用意され、さらにそれとは別の場所でも波乱が用意されていて盛り上がります。

前半はそんなチナの意気地のなさとか、うだうだと逃げる理由を探し続ける思考とか、ネガティブな部分にうわあ、とかなってしまうのですが、とあるきっかけを経て、本当に、ようやくに、自分が真剣に打ち込みたいと思えるものを見つけた後のチナのひたむきさは、こちらからも頑張れと応援したくなる輝きを放ちます。

そこに至るまでの紆余曲折は、なんだか少女小説っぽくて、あまりラノベで見ない感じの流れですが、主人公が女の子なだけに、彼女が悩んでいる事柄が割と違和感なく受け入れられたのかもしれませんね。

そうやって、自分が一生懸命になれることを見つけるまでのチナのお話。彼女の周辺にひそかに隠れていた問題が、上手いこと解決して、今度は彼女が劇団の中で自分を磨いていくことができるかどうかが課題となりそうな展開。次の巻の準備もできているということなので、ぜひ一迅社には続きを刊行していただきたいですね。

いやいや、こういう青春ど真ん中で、気持ちの良いお話は読んでてこちらも元気になりますね。

hReview by ゆーいち , 2008/12/06

なにいろアスタリスク!

なにいろアスタリスク! (一迅社文庫 さ 1-1)
桜庭 わかな
一迅社 2008-11-20