直巳は、どうして。音楽なら。なにが要るのか、すぐわかるのに。わたしのほんとにほしいものは、どうしてわからないの。
直巳と真冬の距離は少しずつ近づいていった。春に出会い、夏をともに過ごし、秋にようやく自分の気持ちに気づいた。そして、冬。直巳は自分の想いを伝えるため、真冬の誕生日を、そしてクリスマスを、ふたりで彼女とふたりで過ごしたいと思うが、それは神楽坂先輩の思惑や、千晶の、直巳には理解できない気持ちに振り回され思うような一歩を踏み出せない。そんな中、次のライブの予定が決まり、練習を開始するが、真冬の身に起きた異変が、再び4人の活動に黄信号を灯してしまい……。
[tegaki]ああ、もう、感無量。[/tegaki]
ここで物語が終わるのがとても惜しいです。けれど、一年を通して四季のように移ろい流れ、変わっていった直巳、真冬、神楽坂先輩、千晶の想いへのひとまずの決着。
誰かが想いを叶えるということは、それ以外の残されたものは、その想いが叶えられないということ。そんな当たり前のことに気付けなかった直巳のヘタレさ加減こそが、どうしようもなく手遅れな事態を生んだ原因であり、彼に惹かれてバンドという形で集い、活動した彼女たちは、あるいは貧乏くじを引かされてしまったのかなあと思いました。が、神楽坂先輩の言うように、好きになるひとなんて選べない、だからこそ恋は切なくて、だからこそそれを叶えたいと願い、あるいは妬み、けれど純粋さゆえに傷ついていく。
直巳がフェケテリコの心臓と例えたのは見事ですね。彼がいなければ、そもそも彼女たちの気持ちは死んでしまう。けれど、彼が彼として鼓動を響かせ、血を通わせている限り、傷ついた彼女たちは血を流し続けなければならない。最終巻たる本巻は、そんな彼女たちの三者三様の心の痛みにも彩られていて、届かなかった想いを抱えることとなってしまったふたりの痛みは、なおのこと琴線に響きまくってしまうのですね。
ああ、もう、それにしても、どうして文章で描かれる音楽にここまで心が揺さぶられるのか。あらゆるシーンで流れる音楽が、どうしようもなく雰囲気を盛り上げて、聞こえないはずの音楽に耳を傾け、妙なシンクロをしてところどころで涙腺緩むわもう大変。真冬のピアノシーンなんて、ねえ、彼女が、直巳のためだけに弾いてくれた楽曲の数々。その意味と、彼女の想いが、その調べに乗せられているのに、この朴念仁主人公ったらさあっ!! その後のライヴ、片翼で懸命にうたいあげるシーンとかも、彼らの必死な思いに彩られていて、それこそ聴き入ることしかできなくなるわけで。
クライマックスで美味しいところを持っていったのが、ダメな大人の代表格だった直巳の親父・哲朗ってあたりが憎いなあ。ダメダメだったくせに、どうしてここ一番で格好いいところを見せるのか。ヘタレな部分を似せてしまった罪滅ぼしにしては破格ですよね。親父からの詫びの言葉を直巳がどう受け取ったのか、彼が過つしかなかった恋愛を、息子の直巳がどう決着を付けたのか、その答えが出るのは……。
はじまりの場所。めぐりめぐってようやく辿り着いたのは、ふたりの出会いの場所。かつてそこで出会い、そして遅くなりすぎてしまったけれど、ついに踏み出すことのできた一歩。ようやく始まる新しい物語。ヘタれすぎた直巳でも、最後の最後で自分で動き、答えを形にしてくれました。これまでの積み重ねがあったからこそのラスト。分かりやすいラストシーンですが、だからこそ、出会いの場所で思いを通わせることができたっていうことが、とても美しく思えますね。
ああ、本当に、これで終わってしまうのが残念。まだまだ見てみたいシーンは多いですね。直巳と真冬のその後もそうだし、それこそ、語られていないバンドメンバーたちの後日談もほしい、そして、何より、フルメンバーが再び集ったフェケテリコのライヴを見せてほしい。そんな我が侭を声を大にして言いたくなってしまいます。ぜひとも後日談でも短編集でも出してくださいませ。
とにもかくにも、素晴らしいお話でした。この最高の物語に惜しみない拍手を。
hReview by ゆーいち , 2008/12/12
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