ねぇ、もしわたしが一緒にここに残りましょうと言ったら、あなたはどうする?
付喪堂骨董店のオーナー・都和子が新たなアンティークを仕入れてきた。『災厄の壺』と呼ばれるそれには、世界のありとあらゆる悪意が封じられているらしい。決してその蓋を開けてはならないと刻也と咲に言い含め、壺の調査を始める都和子。しかし、翌日、刻也は都和子はおろか、咲までいなくなった、無人の店内に愕然とする。脳裏をよぎる、蓋の開いた壺のヴィジョン、そして、壺の置かれた机の上には、現状を端的に示す「この壺の真実に近づいた者に災厄が訪れる――」と記された文献があって……。
幸運
幸運を呼び込むバングルを巡るお話。アンティークによって引き起こされるトラブルよりも、むしろ、それを回収しようと登場した新キャラクター・駿と、彼の連れる少女の存在が気になるところ。
付喪堂骨董店の姉妹店の彼女とは、また違った目的でアンティークに関わっているようだけれど、まずは悪意が感じられてなんとも。今後どういった形で刻也たちと関係してくるのやら、血を見そうな展開の予感が、そこはかとなくするんですが……。
このエピソードも、前巻の第1章と同じく、仕掛けが利いてて、またしてもやられましたねー。幸運にまつわるお話でしたが、結局みんな最終的には不運な終わり方というか、それまでの反動を見事に受けてますね。それでも懲りずに幸運のアイテムを探し求める彼女の姿には呆れるやら何やら……。前巻にもそんな懲りないお嬢さんがいましたね。
あと、何気に刻也の交友関係を気にしてツッコミを入れる咲の姿が大変微笑ましいですね。
希望
続く第3章「言葉」とあわせてのエピソード。
あらゆる悪意が詰め込まれた壺の中に、隠されていた真実は……、というお話。
真実を目指す刻也と平行して真実が語られる構成になっているので、ちょっとややこしい感じですね。
壺の中に詰め込まれた悪意の正体は、実際には非常にもの悲しい由来があったりして感傷的になりますが、でもよく考えてみると、このシステムを作り上げた、その小さな社会そのものがすでに悪意に染まっていたんじゃないかという皮肉さが。次の章を見ても、やっぱりこの時点で救われてたわけじゃないってのがなあ。
言葉
咲が抱える何かが、彼女を躊躇わせる、そんなエピソード。
現実への帰還よりも、過去の干渉することもできない幻の中に残ることをともすれば選びそうになった、彼女の苦悩は深くて、そしてそれはまだ刻也にも垣間見ることができないですね。
母を慕う子の想いが鍵になっていたように思えますが、それは付喪堂骨董店にひとり住まう現在の咲の境遇と、何かしら関連があるのやら? 彼女の背景はまだまだ語られていない部分があるので、いくらでも深読みができますが、少しずつ彼女の内面に、物語が食い込んできているような印象を受けます。
刻也のことを愛しいと思いつつも、彼の優しさが逆に彼女を傷つけてしまったり。真にふたりが通じ合うには、まだ、少しばかり時間が必要なのでしょうか。
本音
そして、咲のターン!
まぁ、これまでのエピソードが重くて重くてどうなるかと思ったんですが、やっぱりこの咲視点でのお話は甘いし悶えてしまいますね。
お互いに服を選んでプレゼントするとか、もう、思いっきり恋人同士のデートにしか見えませんが、嫌がらせのように刻也の悪友たちがちょっかいかけてくることで事態が混乱、見てる方としては彼女の困惑ぶりと、内心のツッコミの切れ味に笑わせてもらえるんですが、いい加減彼女を意識した行動を取ってくれない刻也にはやきもきさせられるなあ。
そんな風に思っていたら、何ですかこのオチは!? ああああ、もう、コンチクショウ。上手いことこれまでのお話を使ってくれやがりましたね。たったひとつの想いを、望んだ相手に伝える、ただそれだけの力を持つアンティーク「コトノハ」を、こんな風に使ってみせるとは。
それを受け取った咲の対応もにやけてしまうなあ。もちろん、咲自身が、その言葉を誰よりも大切にし、それこそ過去のカイリのような何度も何度も繰り返し抱きしめるように味わうことに疑いはないのですが、一緒に贈られた服よりも何よりも、咲にとっては大切なものになりそうですね。
意地悪げに微笑む彼女の表情は新鮮で、素敵で、そしてそんな咲が贈りたいと思う言葉は、いつか形として刻也に贈られるんでしょうかね。小粋な演出が憎いお話でしたね。
hReview by ゆーいち , 2009/01/12
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- 御堂 彰彦
- アスキーメディアワークス 2009-01-07
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[ラノベ]付喪堂骨董店 4&5 “不思議”取り扱います
付喪堂骨董店―“不思議”取り扱います (電撃文庫) 作者: 御堂彰彦 出版社/メーカー: メディアワークス 発売日: 2006/10 メディア: 文庫 付喪堂骨董店〈5〉―“不思議”取り扱います (電撃…