ANGEL+DIVE 3.LOVENDER

2009年2月6日

stars やっぱり、逃げるなんてできない。自分のしたことからは逃げられないよ。

トワコが夏彦の前から姿を消した。突然の別れによって、夏彦は否応なしに変わっていく。そして、彼に想いを寄せる希有も、夏彦の側にいるために、彼へと踏み込んでいく。そんなとき、夏彦の姉・春の容態は快復へと向かい、かつての生活を取り戻すための新しい努力を始める。そんな春に特別な感情を抱く、夏彦の友人の桜慈。ふたりの間にも新たな関係が生まれ、そして全てが変わっていく。

[tegaki]驚愕の第一部完!![/tegaki]

いやぁ、これで続巻の予定がなかったら、壮絶なバッドエンド作品として心に刻まれたこと間違いなしですが、この物語については、これからが本番。なるほど、この結末があったからこそ、別時間で語られていた変貌しきってしまった夏彦の理由が分かろうというもの。

1巻、2巻で夏彦は新しい出会いを経、新しい様々なものを得ました。そして、あらゆるものが永遠・不変であるはずがないということもまた、同時に知識としてすり込まれてきたのでしょうか。新しい友人、淡く抱き始めた恋ごころ、これから幸せになっていけるはずだった家族たち、そのどれもこれもを「喪う」エピソード、それがこの3巻であったというのは、あまりに悲劇的ですね。

冒頭から夏彦はトワコを喪い、そして彼が傍観することもできない中、姉の春と桜慈の交流はどんどん深いところまで、戻れないところまで進んでしまい、そして迎える最悪の結末。これまでのどこかぼんやりとした、けれどどこまでもこのままで在り続けるように思えていた、彼らの日常の崩壊があまりにあっけなさ過ぎて、終盤の展開の絶望さといったらもう。これまで積み上げてきた全てを、一瞬にして破壊してしまったこの物語は、これからどこへ向かおうというのか。

エンジェルダイブ、そしてディジェネレーター、言葉とそれが指し示すものが何なのかは漠然と提示されています。けれど、なぜそれが彼らの日常を奪ってしまったのか、そしてエンジェルダイブによって生み出されてしまった彼ら・彼女らが望むものは何なのか、犠牲者のままで終わってしまうのか、あるいはそこから何かの救いを目指すことができるのか、それがこれから語られていくのでしょうか。

あまりに多くのものを失ってしまった夏彦、同様になにものにも代え難い大切なひとを救うことができなかった桜慈、夏彦との出会いを胸の内に抱えたまま孤独を選んだトワコ、そして夏彦をつなぎ止めようとした希有、逆に夏彦の未来を大きく変えようと選択肢を示した黒雪、彼らがこの事件の後、どのように生き、そしてどのような形にお互いの関係を変容させていくのか、もはやここから先の未来には希望などないように思えてしまうけれど。

けれど、それでも、ここで失われてしまったあまりに儚い命たちにせめてもの安らぎを。

そして、これからも生にしがみついて歩んでいかなければならない命たちの未来に、ささやかでも幸福をと、祈らずにはいられないのですね。

もう、こんな結末が用意されてるとは想像もしてなかったのでショックが大きすぎですね。

hReview by ゆーいち , 2009/01/25

ANGEL+DIVE〈3〉LOVENDER

ANGEL+DIVE〈3〉LOVENDER (一迅社文庫)
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