ラプンツェルの翼

2009年5月18日

stars 君はぼんやりと道を歩いているだけよ。なんの目的もなくただ歩いてるだけ。意志もなく歩いている君はなんなの? 君は誰なの?

《絶対に開けないでください。人にとって危険な武器が入っています》そんな注意書きが書かれたトランクの中に入っていたのは、精巧な容姿をした一糸まとわぬ少女だった。とても「危険な武器」には見えない彼女と、救済者を名乗る女性によりもたらされたいくつかの道具。人類を守る天使を育てるためのプログラムに強制的に参加することになった遼一と少女の、目的とゴールの見えないゲームが始まる。

おおお、なんかきれいに話が終わったぞー。『扉の外』といい『ツァラトゥストラへの階段』といい、なんだか肝心な部分が明かされないうちに次のシリーズが始まったりしてましたが、これはこれで1冊でまとまってるので次は『ツァラトゥストラへの階段』の4巻になるのかなあ?

人間と、人間ではない別の人間ぽいものとの共存する社会。隠匿されているけれど、天使や悪魔と呼ばれるそれらが、社会に根付いていて、ひっそりと、けれど確実に、その社会に生きる人間たちの生命への脅威となっているという世界。

天使と悪魔のどちらもが、人間によって育てられ、課せられたゲームを勝ち抜いた先に、自らの存在の意味があるなんていうのは、相も変わらず趣味の悪い設定ですね。人間が道具として、天使未満の少女たちを使ってゲームに臨んでいるかと思ったら、いつの間にかその主従が逆転してしまうどんでん返し。何らかのルールに支配されたゲームを通じて、対人間だけでなく、意思の疎通ができそうでいて、実はできてないんじゃないかというパートナーとの対話に不安を感じさせられますね。

主人公の遼一とパートナーとなった亡き妹を名乗る奈々の関係は、仕組まれたゲームで生み出された不信やら欺瞞やらの試練の先に、ようやく対話と理解への一歩が踏み出せたようなラストでしたね。この世界の中に、きっと数え切れないくらいに生み出されてきた両者の関係の行き着く先としては、理想的な終わり方であり、始まり方であったように思います。

hReview by ゆーいち , 2009/02/28

ラプンツェルの翼

ラプンツェルの翼 (電撃文庫)
土橋 真二郎
アスキーメディアワークス 2009-02
Amazon | bk1