とらドラ10!

2009年3月13日

stars 俺のこれからの日々を、これから先の全部を、すべてを、おまえと一緒にやっていく。一緒に暮らそう。これからずっと。

お互いの気持ちにようやく気づいた竜児と大河。大人の論理という、子どもたちにとってはどうしようもない法則に支配される世界から逃れるべく、駆けだしたふたりに行き先はなく、雪の舞う夜に当て所なく彷徨う。ぎりぎりの状況下、竜児が下す決断とは、そして、ふたりの想いの行方は……。

[tegaki]みんな幸せ![/tegaki]

ラブコメという線引きなんて軽々と飛び越えて、素敵で素晴らしくてどこまでも幸せなラストに万歳!

大人になりきれない子どもたちの精一杯と、そんな子どもたちを慈しむ大人たちのすれ違いと歩み寄りからここまでの大団円が描かれるとは、竹宮ゆゆこ恐るべし!

前巻の引きと今巻の中盤までの重苦しさから大反転したかのように一気に広がる世界。竜児の世界を変えてくれた大河の存在の重みと暖かさ、そして大河をそばで見守り続けた竜児によってゆっくりとはぐくみ続けてきた彼女自身の本当の気持ちの結実、一年という短いようでいて彼らにとってはとても長かった波瀾万丈な季節の移ろいをともに過ごして、ようやくたどり着いたゴールと新しいスタートのお話。ああ、もう、こんな再出発を祝わずにいられるかってもんですよ。

中盤以降は竜児と大河の問題というよりも、竜児が今までため込んでいた彼の家族に関する問題への答え合わせ。竜児と母親であるやっちゃんとのすれ違いも、確執も、もっと大きな家族という枠組みの中で解決してみせて、手にすることができた幸せ。彼が自分の生を、自分の幸せを全肯定できるようになったのは、家族もののお話の落としどころとしては予定調和的ではありますが、それが何よりも幸福であるということに疑いはなくて。父親の存在はぼかされたままだけれど、そんな高須家の事情を、竜児は大河に重ねてみたり、その痛みを知っているからこそ大河と作り上げていく幸せは揺るぎないものになるんじゃないかと思えてみたり。

一方の逢坂家の事情は、割とあっさりと流されたような気はしますが。逢坂父の転落も、逢坂母の事情も、遠い世界の出来事のように聞こえたり、あるいはそれが竜児と彼らの距離感なのかもしれないけれど。今後は新しく家族になっていく存在がいるということは、かつてやっちゃんが彼女の父母との間に生んでしまったわだかまりを、長く長く引きずることなくどこかで向き合う日が来るという願いを抱いてしまいます。

ああ、そして、竜児のまわりの友人たちもいい働きしまくりでしたね。そんなみんなの姿こそが、竜児が望む幸せな世界。実乃梨と亜美の本音のぶつかり合いと和解も、竜児と大河のそばにいるために必要な通過儀礼に思えたし、北村の応援と信頼も、かつてふたりが彼に寄せたそれに応えるものに思えます。春田や能登、麻耶、奈々子たちの協力も、そんな子どもたちを見守る教師である恋ヶ窪先生も、誰が欠けてもきっと竜児たちの幸せは完成しないのでしょうね。

青臭い理想でも、子どもの論理でも、それを願って実現しようと精一杯毎日を送る姿はまぶしくて。そんな竜児の望む幸せの世界に、竜児自身も迷いなく含んで笑いあえる、これまでも迷い迷った一年を経て、新しく始まる高校生活最後の一年がとんでもなく楽しいことになるのに疑いないですね。ああ、こういう終わり方が見られて幸せでした!

今後出る短編にもちょー期待! ごちそうさまでした。

hReview by ゆーいち , 2009/03/08