世界平和は一家団欒のあとに〈7〉ラナウェイキャット

stars お人好しなんだよ、本当に底抜けのいいやつなんだよ、真っすぐすぎて自分の目の前のことしか見えないやつなんだよ、ここにいる誰にも傷ついてほしくないとか本気で思ってやがんだよ。馬鹿みたいだろ? でもそれができるなら、たとえできなくても、意地でも何とかしてやるって一人頑張るやつなんだよっ……!

刻人が家に連れてきたクラスメイトの少女は巷では「神様」と呼ばれるくらいの予知能力を持っているらしい。そんな彼女・梢が言うには世界はあと一週間で終わっちゃうかもしれないらしい。またしても面倒事に巻き込まれる予感を軋人は覚え、そしてその日が訪れる直前に刻人と梢は失踪する。梢を追いかける謎の黒服軍団も現れ、一筋縄ではいかなさそうなこの事件、はたしてその結末は……?

ようやく陽の目を見た二男・刻人活躍の巻。

影が薄い薄いと言われ続けて早7巻、ようやく彼のターンが来ましたよ。力自慢で周囲の不良たちに慕われつつ、他人から頼まれると嫌とは言えない根っからの善人。けれど、彼女らしい彼女を作らなかった彼が初めて家に連れてきたのは、世界の破滅を予言する少女。

そんな梢も訳ありで、人の好い刻人を自分の目的のために利用しようと近づいて来たのに、疑いを持たずに受け入れる刻人。梢自身の家庭にも彼女の性格をこんなにしてしまった歪んだ事情があって、もはや後戻りできない時点での逃避に似た形で刻人を利用相手に選んでしまったのがまた不思議。

これも、度々言われている、世界の危機を自動的に回避させようとする何ものかの采配のように思えますね。

そうしてみると、その導きは、世界を救うだけでなく、その事件の渦中にある個人や周囲の環境、つまり家族への救済の道も用意しているような心憎さを感じますね。作品名のごとく、一家の幸福なくして世界平和などあり得ない、家族の暖かさがあるからこそ、世界を諦めないでいられる正義の味方たちの優しいお話なんですね。

そんな風にして天から授けられた小さな恋ごころは見事に成就。なんだか、これまでの物語を思い返してみると、だいたいラストには素敵な相方を見つける感じで決着してますねえ。恋の橋渡しの真似事みたいな働きをした軋人自身は、弟に先に彼女作られてしまって、兄の権威失墜な感じですが、隣にいる柚島さんとの一向に進展しない関係もそろそろどちらかから踏み込んで来てほしい気もします。

hReview by ゆーいち , 2009/04/26

世界平和は一家団欒のあとに〈7〉ラナウェイキャット

世界平和は一家団欒のあとに〈7〉ラナウェイキャット (電撃文庫)
橋本 和也
アスキーメディアワークス 2009-04-10
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