……わたし、アルが好き。アルが生きているこの世界が好き。他には何にもくれなかったけど、、わたしに優しくしてくれなかったけど、それでもわたしをアルに会わせてくれたこの世界が大好き。
北極上空の大気制御衛星内に転送された錬たちは、アルフレッド・ウィッテンの遺した日記を発見する。そこに記されていたのは、決して語られることのなかった魔法士誕生にまつわる秘密と、ウィッテン自身の苦悩だった。最初の魔法士・アリスとの出会いと、そこから発見された情報制御理論、そして大気制御衛星の暴走、世界を大きく変えてしまった過去に隠された真実が、ついに明かされる。
孔明が集まりすぎると、そもそも争いは起こらない。これ重要。なぜ過去の大戦が回避できなかったかという答えの一つなのかも。
ということで、アリスとウィッテンの出会いから始まった過去のエピソード。魔法士誕生の秘密とか、大気制御衛星暴走の真相とか、そもそもアレが何だったのかという疑問に解がもたらされたわけですね。もっとも、このエピソードでさらに付け加えられた疑問――世界の解とは何なのかとか、地球を覆う雲を取り除くための真昼が苦悩するほどの手段とか――のせいで、さらに焦らされまくってますが。
ああ、それにしてもこの登場人物たちの生き様には相変わらず切なくさせられるなあ。ウィッテンのきれいすぎる理想と、それを許さない世界。アリスにとっても決して優しくない世界を、それでも何とか彼女のために変えていこうと決意した彼を容赦なく打ちのめす「人間である」ことゆえの恐怖。健三のように理性と理論に徹しきることもできず、エリザのように他人に対して一切の無関心を貫くこともできず、ただただアリスの幸せを願ってしまったという彼の優しさが招いたのがどうしようもない世界の変革と大切な彼女との別れだというのが痛い痛い。
アリスのいなくなった世界、けれどそれはアリスから託された世界。そんな矛盾をはらんだ世界の中で残りの生をまっとうしたウィッテンの願いとあるいは贖罪が綴られた日記を、彼の子たちである錬やサクラたちが受け取る、そんな流れは当のウィッテン自身すら予想してなかっただろうけれど、だからこその運命的な流れにも思います。
人間と魔法士の境界を曖昧にする、あるいはそれは世界に生きる魔法士でない人間の立場を危うくしかねない選択肢を与えられた登場人物たち。理想に生き魔法士たちの理想郷を作り上げるという賢人会議の目的も軌道修正を余儀なくされそう。その理想と相容れない錬たちの立場も変化しそう。今回語られた過去の物語を通じて、現在、異なる立場で戦わざるを得なかった彼らの間にも一本の線が結ばれたようです。
そして、またしても世界の真実へ最も近い場所へ立つことになった真昼の手に渡された鍵が、これからの未来を作るためのどんな扉の鍵なのか、激しく気になりますね。
hReview by ゆーいち , 2009/06/21
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