偽物語〈下〉

stars だけどな、月火ちゃん。阿良々木月火は生まれたときから――ずっと僕の妹だったんだ。僕の妹で火憐ちゃんの妹だった。そうじゃなかったときはひと時もない。

ファイヤーシスターズの参謀担当たる阿良々木月火。あるいはもうひとりの妹である火憐よりも手に負えない、ちっちゃいほうの妹だ。火憐と件の「偽物」との問題が解決したと思ったら、今度はこっちの妹にも怪異の影が。彼女の正体を語ることで僕達の物語にもとりあえずの終止符を打とうと思う。それは、彼女がその身に取り込んだ、吸血鬼をも凌駕する聖域の怪異の物語。そして僕と妹たちとの間にあるほんとうの繋がりの物語。

[tegaki]阿良々木暦自重せず![/tegaki]

アニメ化に絡んだメタ発言やら、八九寺に対するロリコン全開な危険思想やら、実妹とのラブラブプレー(笑)やら何このハーレムルート主人公。ガハラさんがいないからってちょっと調子に乗りすぎなんじゃありません? ってそれよりも戦場ヶ原さんの矯正っぷりに本気で驚いたんですが、アレはネタじゃなくて本当なんだろうなあ、なんだか残念だなあ、というかキャラが変わってしまって、今後の出番があるかどうかは本気で心配になってくるんですが。

そして、あとがきでの続編発表とか、西尾維新はどんだけこのシリーズを趣味で続ける気なんだろう。勘ぐればアニメ化やらなにやらでまだまだ原作も続けられるという大人の事情かとか思ってしまいますが、まぁ、八九寺と羽川さんの物語がまた楽しめるということならば全力で期待しようじゃありませんか。てか、そんなことやってると化物語のキャラのルートもう一周しそうな気もしますが……。

それはともかく本編。もうひとりの妹・月火のお話かと思いきや、彼女にまつわる物語が終盤だけで、それまでがいつも通りのノリツッコミな漫才尽くしだったのにある意味驚愕。おかげで、かなりヘヴィな月火の正体にまつわる部分だとか、その決着だとかが薄味風味に感じてしまってその辺は上巻に比べるとやや食い足りないのかなあ。その分、兄と妹とのむやみやたらなスキンシップやら一線超えそうなあれやこれやらでいろいろと補充させてもらいましたが。

にしても、実は意外とこの作品て変化することに肯定的な気がしますね。この手の作品はキャラを大幅に変更することを忌避するというか、逆に読者の違和感や反発を招くからできるだけ統一してキャラを描こうとするものだけれど、本編中のガハラさんの豹変・革新ぷりとか、忍の設定がすげー変化してることといい、あるいは羽川さんの旅立ちのことといい、作中時間ではそれほど経過してないはずなのに、大きく変わってるなあという印象が。そして、そんなことが本編とあんまり関係ないてきとーな流れの中でさらっと語られたりして「え?」とか思いつつ読んでしまうわけですよ。

逆に、一応の主題となる月火の正体云々も兄妹という関係を根底から覆すような事実が語られるのに、それに対する阿良々木の反応がその前後で変わらないというのも面白いかも。血縁が偽物であるとわかっても、彼が妹の兄であった時間は本物であるという、その時間によって築き上げられてきた兄妹という絆そのものを真実信じるという態度がこの作品の中で変わらないものの象徴のようにも思えます。

……まぁ、彼のロリコンの真性具合の方こそが変わらないような気もしますが(笑)

ともあれ、続きの物語も楽しみ。そして、アニメもちょー楽しみ。失敗しないことを祈りますよ。

hReview by ゆーいち , 2009/06/23

偽物語(下) (講談社BOX)

偽物語(下) (講談社BOX)
西尾維新
講談社 2009-06-11
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