さあ、取り戻しに行こうじゃないか。きみが手に入れるべき世界を。
大きな力を持った謎の二人組の刺客から辛くも逃れることができた才人。しかし、相棒のデルフは失われ、アンリエッタとの秘め事を目撃されルイズもまた彼の前から姿を消した。失意に落ち込む才人をシエスタは叱咤激励し、行方も知れぬ彼女を捜すための背中を押す。一方のルイズは、帰る場所を失い、あてどなく旅を続け、そしてとある宿場町でジャネットと名乗る少女と出会う。
ルイズとデルフという存在を失くしてしまうと、英雄と呼ばれようと結局のところ才人は年相応の少年に過ぎないのか。精神的な支柱が砕け、自分の迂闊さとふがいなさと不誠実さゆえに大切なものを手のひらからこぼしてしまった才人が悩んで悩んで苦しむお話。
着々と力を付け、地位を築いてきた才人を快く思わぬ貴族たちの思惑があらゆる方向から彼を苛んでいるかのよう。元素の兄弟というかつてない強敵しかり、ばれればいろいろな意味で致命傷となるアンリエッタとの関係しかり。そんな複雑な境遇となった才人の隣にルイズたちがいない、それがどれだけ心細いのかということを、今回のエピソードで嫌でもかと描かれた感じですね。
まぁ、今回のルイズの決意については、才人の浮気という言い訳のしようもない一方的な裏切りが原因ではありますが、これまでの彼女のような、才人への怒りをひたすらにぶつけるというストレートな表現じゃなく、静かに身を隠すというところにルイズの中で大きく膨らんだ才人への想いというものが感じ取れますね。悩み苦しんで、それから彼のために自らの身を引くという選択は、これまでのルイズの幼さの残る独占欲からくる嫉妬とは一線を画するような女としての感情が伺えました。だからこそ、そんな苦悩の末の逃避行と、そして、さらなる懊悩の果ての再会といった今回の展開は、だからこそお互いの繋がりの強さをさらに確認するという結果になってるとも思いますが。
終盤の元素の兄弟・ジャックとの対決で見せたルイズの大きな力は、精神的な彼女の成長の証でしょうね。圧倒的じゃないか! 彼女の帰還と共にようやく自分の強さを取り戻すことのできた才人。どちらが欠けてももはや自分ではいられない、そんなふたりの絆が見せた逆転劇でしたね。あとは相棒のデルフが復活してくれれば……。
一方、物語はこれからまたしても大きく動こうとしている模様。タバサの代わりにガリアの女王の地位を得たジョゼットの存在によって、いったんは収まったかに思えた聖地奪還の戦いが再び勃発しそう。タバサとうり二つのジョゼットの登場によって、自体はさらに混迷し、そして彼女の代わりに幽閉されることになったタバサのこれからはどうなってしまうのか? タバサもまた運命に弄ばれるように次から次へと苦難を与えられてますね。
ああ、しかし、それにしてもアンリエッタの女の顔はなんて魔性。こと、才人のことになると我を忘れたかのように彼に拘泥するのは本気なのか、あるいはただの逃避なのか。自分の選択を後悔しないと言いはしても、彼女の行動次第で国は大きく傾くだけに、自分のためにも国のためにも自重するという選択は彼女の中にはないのでしょうか。エピローグでルイズとの本気の罵り合いとかで少しは発散できたろうけれど、また時間が経つと才人に依存してしまいそうな危うい女王さまですからねえ。
それでも、最後の才人とルイズの睦み合いはまた、これまでとは違った深い愛情を感じたりと、単なるいちゃいちゃから一歩も二歩も進んだ関係になってて良きかな良きかな、なんですが。
hReview by ゆーいち , 2009/07/06
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ゼロの使い魔17巻 黎明の修道女(スール)の感想レビュー(ライトノベル)…
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