たしかに、変わるってのは怖いことだよ。でも、自分に素直になる勇気があれば、あんがい気持ちいいよ。病み付きになっちゃうくらい。そりゃ、お話みたいにカッコイイ恋はなかなかないかもしれないけど……現実だって、捨てたもんじゃない。
不思議なモノが見えてしまう困った体質の桐島新太は、そのせいでバイトをクビになった帰り道に貸本屋「満月堂」へと立ち寄る。満月堂の店員のツクモは、新太の体質を知るや、自分の手伝いをしろと持ちかける。お互いの利害が一致したことから生まれた協力関係。けれど、その手伝いは世界の存亡に関わるような重大な内容だと知らされて……。
『under』の厨二病全開な作風から随分と雰囲気を変えて新シリーズスタートです。いろいろと残念な登場人物たちが織りなす、ちょっと気の抜けたユルい、けれど世界を救っちゃう感じの物語。
他人との深い関わり合いを避け、読書を唯一の楽しみとするような少年・新太と、貸本屋「満月堂」をひっそりと営む態度ビッグな後輩・ツクモの出会いから始まった奇妙なお話。
奇妙なモノが見える新太を相棒として、世界を実験場として観察をする神様の使い・観測者のお役目を全うしようとするツクモだけれど、自信満々な態度やら、彼女の妹分なオコジョ少女・クルンを都合の良いように使い走らせる自己中さやらとは裏腹に、どこか抜けていて詰めが甘いのはご愛敬。
一方の新太もツクモと出会ってからやることなすこと裏目に出て、せっかく書きためてきた人生を平穏に過ごすための教訓メモも役に立たず、さらには何を間違ったのか横暴にしか思えない彼女に惹かれていったり。そこに色々と残念なもうひとりの後輩・小雪やら、クラスメイトで図書委員な藤崎さんやらも絡んできて、おまけに彼女たちも普通に見えて、実はかなり残念な中身を持っていたりと、誰も彼もが残念三昧。
ツクモと新太は観測者としてパートナーの関係を結ぶけれど、お互いが自分の心の内を器用に見せることができないものだから、お約束通りのぶつかってケンカして。でも、やっぱりお互いが気になるという本心に嘘は吐けなくてピンチに駆けつけてみたりと、色恋沙汰に縁のなさそうなふたりの、恋愛以前の関係から、意識し始めるまでの変化が良い感じに描かれてますね。
なんか戦いとかありますが、そこも良い具合に緊張感が欠如してて、特に終盤の調停戦争の内容とかあほですねー。真剣に、目を輝かせて、対戦する両者がやってるあたりが特に。
と、シリアス成分はかなり薄めで、新太とツクモの珍妙なやりとりを楽しむ感じのお話でしょうか。読み物の中でしか恋愛を楽しむことができなかった、しなかった新太が、読み物の中の登場人物のような面白で難儀な性格のツクモとようやく始めた恋の一歩目。今後は彼女絡みの教訓が、新太のメモ帳に増えていくのでしょうか、楽しみですね。
hReview by ゆーいち , 2009/07/10
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